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中国囲碁ニュース

中国の著名な棋戦情報をお伝えします。

中国からの囲碁ニュースを皆様にお伝えします。

棋声人語 [ 2017年12月26日 ]

囲碁甲級リーグで北京チーム初めての優勝

 今年の中国囲碁甲級リーグは12月2日に重慶市で幕を下ろした。1999年(平成11年)に創立された中国囲碁甲級リーグの優勝者は長年重慶、上海、杭州の三大豪族で独占されていた。中国囲碁の中心ではあるが、北京チームは18年間優勝したことがなく、この数年間では、リーグ中のランクが保てるかどうかも問題となっていただけに、大変意外な結果だといえるだろう。

 2017年、北京チームはやっと面目躍如を果たした。二人の世界チャンピオン棋士、陳耀燁九段(28歳)、柁嘉熹九段(26歳)は一年間絶好調で、さらに主力選手である鐘文靖六段(27歳)、韓一洲五段(20歳)の成績も以前より明らかに成績がよくなった。そして、北京チームができてから初めて登用した韓国からの助っ人である申旻埈六段(18歳)の勝率も半分を超えた。控え選手の伊凌濤五段(17歳)が新鋭戦の優勝者でありながら、全シーズン26回戦の中で一回しか登場しなかったほどだ。北京チームの今年の実力をうかがい知ることができるだろう。

 陳耀燁九段は、中韓囲碁界の第一人者である柯潔九段、朴廷恒九段を相手に、前半戦、後半戦で三戦全勝、19勝7敗の好成績でシーズンMVP、最優秀主将、最多勝の三大賞を獲得した。去年この三大賞を取った柯潔九段(20歳)は今年成績が落ち込み、最後の5回戦で五連敗し、結局、人気賞しか取れなかった。ちなみに、最優秀新鋭賞はリーグ3位の杭州チームから謝科五段(17歳)が受賞した。

 囲碁AIの影響で、12月2日に行われた第26回戦が中国囲碁甲級リーグの歴史で昼休みを取る最後の試合となった。これからはお昼に封じ手をする制度は完全に廃止となる。また、2018年は旧ルールを採用する最後の年である。再来年の2019年からは、中国囲碁甲級リーグはレギュラーシーズン、ポストシーズンという方式をとり、優勝をめぐる戦いはますます激しくなることが予想される。

囲碁甲級リーグ最終ラウンド対局会場全景
優勝チーム北京チーム記念写真。左から鐘文靖六段、柁嘉熹九段、譚炎午七段(コーチ、66歳)、陳耀燁九段、孔傑九段(コーチ、35歳)、韓一洲五段、蔡競六段(24歳、スカウトメンバー)

聶衛平九段(65歳)が陳耀燁九段にMVPを贈呈。
この度地元開催となった昔からの強豪チームである重慶チームは6位。楊鼎新五段(19歳)は足をけがし、ステッキで参戦した。古力九段(34歳)の娘も一緒に登場した。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年12月21日 ]

新鋭戦からきた新鋭

林海峰九段は伊凌濤五段を表彰した。

 2017年呉清源杯中国囲碁新鋭争覇戦は18歳以下の男子プロ棋士、20歳以下の女子プロ棋士が参加できる棋戦である。北京での予選と本戦2回戦の試合が終わって、8強戦から決勝戦が福建省福州市で行われた。

 結果は福建地元の人々に大変喜ばせるものとなった。決勝戦に進出した二人の棋士の中では、まず王沢錦五段(18歳)が福建生まれだ。そして、相手の伊凌濤五段の原籍も福建で、地元棋士ともいえる。だが、囲碁甲級リーグの中心である許嘉陽六段(18歳)、趙晨宇六段(18段)、廖元赫六段(17歳)と比べると、この二人はそれほど「主力」ではないし、優勝した伊凌濤五段は他とは「異なった」経歴でプロになった棋士である。

 中国では、通常プロ棋士になるには年に一度の入段試験に合格しなければならない。しかし、伊五段は2014年に晩報杯全国アマチュア棋戦で優勝したことにより、直接プロになった。中国では、こういう状況は「野戦軍」、あるいは「グラスルーツ」と呼ばれている。それも理由の1つだろうか、伊五段の棋風は、独特で形に拘らない。彼は、将来もっと輝く舞台で活躍できると期待されている。

 今回の新鋭戦は11月28日に行われた。そして、11月30日は呉清源九段(1914-2014)が亡くなった日である。呉清源の娘と弟子である林海峰九段(75歳)、芮廼偉九段(54歳)が福州に集まり、呉清源の故郷で葬式を行った。囲碁の大師はやっと故郷に戻ったのだ。

こちらは伊凌濤五段が黒番で丁浩五段(17歳)と対戦した時の奇妙な一局。白30のキリが厳しい。しかし、黒39ツケ、41ハネの構図が奇想天外だった。白40で四目取りを許した。これは囲碁AIの影響で、碁盤の上での新しい動きである。

(記事:楊爍 / 写真提供:sina)

棋声人語 [ 2017年12月14日 ]

50歳のエネルギー

 上海建橋学院は私立大学で、上海の臨港に位置し、東海のすぐ隣にある。職業教育に優れ、ずっと高就職率を誇っている。また私立大学ということもあり、上海建橋学院では理事長の個性が強く出ており、周星増理事長(55歳)の囲碁に対する強い気持ちが学院内にしみこんでいる。

 2017年11月末、上海建橋学院で「学園囲碁文化祭」が行われた。囲碁文化講座、プロ棋士指導碁などのイベントもたくさん開かれた。同時に、上海建橋学院がスポンサーをしている囲碁甲級チームのホームゲームと、建橋杯中国女子囲碁戦決勝戦も一緒に行われたが、良い日にはよい結果が出るものだ。囲碁甲級リーグで、上海建橋学院チームはずっと現在の順位を保つのに苦労していたが、11月22日にホームで成都チームに勝ち、順位を保つことに成功した。

 11月22、23日に行われた第15回建橋杯決勝戦の対戦カードは芮廼偉九段(54歳)と尹渠二段(15歳)。40近くの年齢差は中国プロ棋戦の最大年齢差となった。中国女子の第一人者である於之瑩六段(20歳)は準決勝戦で意外にも尹渠二段に負けてしまった。待望の新人が棋界に現れたと言えよう。

 だが、経験豊富のベテランはやはり卓越した実力を見せつけた。三番勝負の決勝戦では、芮九段が2連勝を収め、尹二段に1勝もさせなかった。芮九段は棋界で40年も活躍し、優勝をめぐって、六代の棋士とも戦ってきたが、低い評価となったことはない。「30歳過ぎたら年を取った」と言われる中国囲碁界で、54歳の芮九段が2017年に全国運動会プロ女子個人金メダルと建橋杯、2つの女流棋戦で優勝したことは、50歳のエネルギーを示し、後輩たちにいい手本となった。

決勝戦対局会場
上海建橋学院理事長周星増(左一)と中国囲碁協会王汝南八段(71歳)が芮廼偉を表彰。

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2017年12月7日 ]

呉清源杯中国囲碁新鋭戦誕生

 2014年(平成26年)11月の末、一世代の囲碁の師と呼ばれた呉清源九段(1914-2014)は百歳をもって、逝去した。三年後、呉九段への追憶も含め、呉九段の出身地である中国福建省福州市では「呉清源杯」という中国囲碁新鋭戦が誕生した。11月1日から3日、予選と本戦の2回戦までは北京の中国棋院で行われた。そして、勝ち抜いた8強棋士は月末に福州へ決勝戦にいくことになっている。

 参加棋士の男子は18歳以下、女子は20歳以下となっている。今、中国囲碁界では毎年、30名ほど入段し、驚くばかりの増員である。そして、今回の棋戦に申し込んだ棋士も65名に至った。その中でも、許嘉陽六段(18歳)、趙晨宇六段(18歳)、廖元赫六段(17歳)は中国囲碁甲級リーグで主力になった選手だ。中国囲碁界では最年少のプロ棋士李沢鋭初段(12歳)も予選で女流棋士羅楚玥初段(17歳)に勝ち、本戦に入った。

 ちなみに、中国の新鋭戦では日本、韓国の新鋭戦と大きく異なるところがある。それは華学明七段、葉桂五段、於之瑩六段が違った時代に同年代の男子選手に勝って優勝したことである。だが、残念なことに、於六段はほかの試合と重なったので、今回は参加しなかった。女流棋士は今回の試合では四分の一を占めていたが、本戦に入ったのは尹渠二段しかいなかった。そして、本戦一回戦で世界大会四位に入った謝科五段(17歳)に負けて、残念ながら敗退してしまった。

対局場
囲碁甲級メンバー対決 趙晨宇六段(左) VS 陳梓健五段(17歳)

最年少棋士李沢鋭初段
唯一本戦に入った女流棋士尹渠二段

(記事/撮影:楊爍)

棋声人語 [ 2017年11月30日 ]

中国囲碁名人戦三十年

 去年、中国囲碁天元戦が三十周年を迎えたのに続き、今年の中国囲碁名人戦も三十年目に入った。この二つはともに新聞社(上海の「新民晩報」と北京「人民日報」)による棋戦で、いまはもう中国囲碁界の一番歴史の長い棋戦になっている。日本から伝わった新聞棋戦の魅力は中国でも減っていない。

 今、中国の名人戦の優勝者は連笑九段(23歳)であり、彼はこの二年の防衛戦で陳耀燁九段(28歳)、周睿羊九段(26歳)を倒した。今年の挑戦権を勝ち取ったのは芈昱廷九段(21歳)である。三人は全員世界チャンピオンである。連笑は10月30日の囲碁甲級リーグの対戦で童夢成六段(21歳)に勝ち、総計点数で中国囲碁協会の第44名の九段棋士となった。勝った後、彼は江蘇蘇州から四川塩亭へ行き、11月1,2,4日にわたった名人戦挑戦シリーズに参加した。

 三番勝負の一局目では、芈九段は先勝を取ったが、強靭な連九段はそのあとの二局を取り続け、名人三連覇を果たした。だが、古き名人タイトルが、新時代に入るにつれて囲碁の試合も大きな変貌を遂げた。挑戦者決定戦が始まった11月1日から、囲碁AIの急速な発展の影響で、中国囲碁界のプロ試合では携帯などの電子機器の持ち込みが禁止されることになった。そして、昼休みの時間も1時間から30分になった。また、次第に昼休みとネット予選を取り消す方針である。これからは早碁が一層主流になるだろう。中国名人戦は今後、お昼から始まり、半日で終わらせるようになっている。長年二日制の伝統を用いる日本名人戦も変わるのだろうか。

(記事:楊爍 / 写真提供:sina)

棋声人語 [ 2017年11月23日 ]

応昌期氏生誕百周年

応明皓は応昌期氏百周年記念イベントで父親を追悼

 10月22日、24日、第14回中国倡棋杯世界プロ囲碁選手権戦と第7回中国アマチュア大会陳毅杯がともに上海応氏ビルで行われた。対戦をする四名の棋士は数多くの敵を倒して突破してきた。江維傑九段(26歳)は6年前すでに世界チャンピオンになった。また、檀啸九段(24歳)は今年の春蘭杯世界囲碁選手権戦の優勝者である。王琛7段(25歳)と白宝祥7段(24歳)はともに「アマチュア四天王」と呼ばれ、陳毅杯でも優勝したことがある。

 結果は驚くほど似たようなものとなった。決勝戦は同じく三番勝負だが、檀啸九段は二局とも「不計点勝」で、王琛7段も二局とも「1点勝」で優勝した。これで、王琛7段は初めて二度陳毅杯で優勝する壮挙を果たした中国のアマチュア選手になった。そして、檀啸九段は今年が干支にあたる年で、「世界優勝」、「九段昇段」、「結婚」、「国内優勝」という四つの人生の大きな出来事を年内に達成した。彼と結婚したのは女流棋士の賈罡璐二段(22歳)。

 10月23日はちょうど応氏杯と応昌期囲碁教育基金会の創立者応昌期氏(1917-1997)の生誕百周年である。応昌期氏の息子応明皓(74歳)は応昌期氏の故郷寧波とかつての仕事先上海で記念イベントを開催した。応昌期氏の囲碁に対する無私の貢献がなければ、今の応氏基金会が主催する各囲碁棋戦やイベントなどもなかっただろう。囲碁界では、応昌期氏のように、莫大な財力、先見の明、囲碁に対する情熱、この三つを全部持っている人はなかなかいない。

倡棋杯、陳毅杯対局場

(記事:楊爍 写真提供:囲棋天地)

棋声人語 [ 2017年11月18日 ]

柯潔九段が「利民杯世界星鋭戦」王者に

柯潔九段が賞杯を受賞

 杭州銭塘江のほとりにある中国棋院杭州分院は、毎年十月に大規模な「棋文化博覧会」を行う。文化フォーラム、企業間の交流以外に、プロの棋戦もある。2017年10月14日から18日、杭州分院による利民杯世界星鋭最強戦総決勝戦が初めて博覧会と同時に行われた。今回、参加できるのは1997年(平成9年)以後の生まれの棋士だ。世界第一位の柯潔九段(20歳)が参戦するのは最後になり、自然と注目されるようになった。

 1996年(平成8年)生まれの芈昱廷九段(20歳)、范廷鈺九段(20歳)、范蕴若六段(20歳)など同年齢の強豪がみんな年齢を超えたが、柯九段のライバルはそれほど減っていない。中国の黄雲嵩六段(20歳)、謝璽豪六段(19歳)、許嘉陽六段(18歳)もみんな実力者であるし、韓国の李東勲九段(19歳)、申旻埈六段(18歳)、申真谞八段(17歳)も虎視眈々と優勝を狙っている。最近調子があまりよくない柯九段であるが、自身の「卒業式」では真の実力を発揮した。五局連続不利な黒番であるにもかかわらず、次々と強敵を倒し、最初で最後の利民杯世界星鋭戦で優勝した。

 利民杯世界星鋭戦は2014年(平成26年)に創立され、四年が経った。これからの参加者にはしばらくのあいだ、世界チャンピオンがいなくなり、正真正銘の「新鋭棋戦」となる。これから40万元(約680万円)の優勝賞金は誰の手に入るだろう。

中韓両国の新鋭が多かったが、柯九段が対局した五局の中で一番危なかったのは第二回戦、日本棋士の大西龍平三段(17歳)との対局だった。もともとは何の変哲もないヨセの局面のように見えたが、白番の大西は果敢に白174に入ってコウを作り出した。そして、後半の局面は一気にかわった。最終的には、黒の中央は白に全部壊された。だが、黒もAの一線から右上の白を全滅させた。相当見どころがある一局だった。

( 記事 / 写真 : 楊爍 )

棋声人語 [ 2017年11月9日 ]

威孚房開杯でなんと四コウが現れた

大会現場

 10月10、11日にかけて、中国囲碁界の伝統棋戦である威孚房開杯中国囲碁棋王争覇戦が中国棋院で開かれた。この棋戦は今年で13回目になり、従来通り、まず32名の棋士による2ラウンドの戦いで8強を決め、それから江蘇省無錫市で決勝戦を行う。32名の棋士は30名のランキング上位者、特別招待枠の男子棋士一名と国家チームの女子棋士一名からなっている。今年招待された棋士は常昊九段(40歳)である。中国一位の柯潔九段(20歳)は「日程をあけることができなかった」という理由で、今回は参加しなかった。

 そして、試合の結果も今の中国囲碁界の状況を反映していた。絶対の王者はいない。芈昱廷九段はひとりだけ二連勝した。陳耀燁九段(27歳)、李欽誠九段(19歳)の二人の大物は、張濤六段(26歳)に倒された。張濤は上海財経大学に在籍し、今年は卒業のために精一杯頑張っている。囲碁以外にも力を入れているようで、立派な成績を取り続けた。

 この段階で一番注目を集めたのは第1回戦で江維傑九段(26歳)と李欽誠九段の対局で、四コウが出てきて、結局無勝負になってしまったことだ。ルールに従って、二人は残りの時間を利用してプレーオフをした。試合はお昼の12時30分から始まり、16時には競技場に人はほとんどいなくなった。二人は18時ごろまで苦戦して、最後に、李欽誠九段が半目でかろうじて勝利した。二人は長い一日をともにした。

江維傑九段は黒番で李欽誠九段と対戦。左下A、Bの二つのコウは白の両コウで黒を殺したが、黒は無数のコウ立てが出てきて、白が下辺に作ったCのコウにも恐れない。だが、白も巧妙に右上隅の黒をコウにした。黒225のアタリに対して、白226はコウ作り、これで四コウが完成した。不思議なことに、黒はD-Fに打てば、もっと珍しい五コウになる。

( 記事:楊爍 / 写真提供:囲碁天地 )

棋声人語 [ 2017年11月1日 ]

第8回世界囲碁頂上対決

対局現場

 今年9月22日に真のトップ棋士二人を迎え、二年に一度の「世界囲碁頂上対決」が開催された。この棋戦は2003年(平成15年)に創立され、中韓両国の世界優勝を勝ち取った棋士が参加できる。中国では、常昊九段(40歳)、古力九段(34歳)の後も、何年にも渡り多くの強者が次々と現れた。この棋戦だけでも、孔傑九段(35歳)、陳耀燁九段(27歳)、唐韋星九段(24歳)が代わる代わると登場した。そして、柯潔九段(20歳)が去年中国第一人者の地位を確立してから、「世界囲碁頂上対決」に誰が参加するかということについてはやっと考える必要がなくなった。

 韓国の参戦棋士は四年も韓国ランキング一位を占めている朴廷恒九段(24歳)。彼は2013年(平成25年)に一度参加したことがある。だが、ライバルの陳耀燁九段に負けてしまった。しかし、柯九段にとって朴九段は珍しい好敵手である。この二年間、柯九段は応氏杯、LG杯、夢百合杯で優勝したことがないのは、朴九段がその相手だったからだ。

 世界囲碁頂上対決の競技場は湖南省湘西鳳凰古城で、ミャオ族のエスニック風情と神秘的な伝説で知られている。主催側が14年前にこの棋戦を創立した目的は囲碁の影響力を借りて旅行産業を発展させるということだった。いまや、鳳凰古城はもう中国では誰もが知っている観光地になった。今年の結果も中国側にとって喜ばしいものとなった。長い闘いを経て、柯九段はわずかな優勢で最後まで勝ち切った。棋戦の優勝、準優勝賞金は6万、4万ドルである。

世界囲碁頂上対決の歴代成績は以下のとおり。日本棋士を迎えられるのはいつだろうか。

平成15年 曹薫铉九段(韓) 勝 常昊九段(中)

平成17年 李昌镐九段(韓) 引き分け 常昊九段(中)

平成19年 羅洗河九段(中) 勝 李世石九段(韓)

平成21年 李世石九段(韓) 勝 古力九段(中)

平成23年 崔哲瀚九段(韓) 勝 孔傑九段(中)

平成25年 陳耀燁九段(中) 勝 朴廷恒九段(韓)

平成27年 金志錫九段(韓) 勝 唐韋星九段(中)

平成29年 柯潔九段(中) 勝 朴廷恒九段(韓)

( 記事:楊爍 / 写真提供:sina )

棋声人語 [ 2017年10月21日 ]

2017 中国囲碁個人戦

個人戦大会現場

 かつて中国囲碁界の最高峰棋戦である「全国囲碁個人戦」は、中国囲碁の発展とともに、20世紀90年代からだんだんと若い棋士が参加するようになり、注目度も日々下がっている。この個人戦を改革しようという呼び声が中国囲碁界にはずっとある。今年、囲碁AIが勢いよく発展してきたので、ネットで囲碁対戦をする時のモラルリスクもどんどんふえてきた。そのため、長年中国で行われてきた「ネット予選」は存続の危機にある。以上の理由で、9月14日から26日まで山東省徳州市で開かれた中国囲碁個人戦は大会方式と奨励方法を改めた。

 個人戦はランキング点数による男子甲乙の組分けを取り消した。13回戦によるスイス式リーグ戦で、女子個人戦は従来通りのスイス式9回戦である。同時に、もともとネット予選をするプロ棋戦は、個人戦の成績により、来年度の一部の枠が変わると定めた。

 個人戦は、潜在能力のある棋士が活躍前に通る道である。この十年、江維傑九段(26歳)、朴文垚九段(29歳)、檀啸九段(24歳)、芈昱廷九段(21歳)はみんな世界優勝の前にこの個人戦で優勝した。そして、今年の個人戦では一人のダークホースが現れた。もともと存在感が薄かった囲碁甲級控え選手の韓一洲五段(20歳)は11勝2負で優勝した。去年の個人戦チャンピオン范胤六段は同じ11勝だったが、sos点数が低いせいで二度目の優勝を果たせなかった。

 女子個人戦のほうでも、番狂わせが次々と起こった。女流棋士第一人者の於之塋六段(19歳)は地方棋士の高星三段(21歳)と今年入段したばかりの李鑫怡初段(17歳)に負けて、結果三位になった。高三段と李初段は女子個人戦の優勝と準優勝になり、女流棋士の新しい頂点に立った。

( 記事 / 写真 : 楊爍 )

棋声人語 [ 2017年10月12日 ]

第29回テレビ囲碁アジア選手権戦

決勝戦現場

 一年半前、AlphaGoと対決してから、世界棋戦で優勝したことがない李世石九段(34歳)は、軽く首を横に振り、石を置いて負けを認めた。向かいに座っていた後輩、羅玄八段(22歳)に「おめでとうございます。」と言った。

 これは9月17日に行われた第29回テレビ囲碁アジア選手権戦の決勝でのワンシーンだった。李九段は最年長として、日本NHK杯チャンピオン井山裕太九段(28歳)、前回のアジア杯チャンピオン李欽誠九段(18歳)に連勝し、5回目の決勝戦進出を果たした。羅玄八段に勝てば、二十年前に4連覇を成し遂げた武宮正樹九段(66歳)を超え、5回目の優勝というアジア杯史上最も多い優勝記録を樹立することとなる。

 だが、このプレッシャーのせいか、李九段は平常心を失った。決勝戦では、李九段の打ち方が妙に変わっていて、始めてから数十手で、中国中央テレビ(CCTV5 )で現場解説をしていた聶衛平九段(65歳)が「李世石がかならず負けるでしょう。」と断言した。今回、多くの人の予想に反して、羅玄八段は李軒豪七段(22歳)、一力遼七段(19歳)、李世石九段に連勝し、初めてテレビ囲碁アジア選手権戦で優勝した。

 今回の試合は浙江省平湖市で開催された。300年前、范西屏、施襄夏はここで当湖十局を行った。地元は「当湖十局」という囲碁文化を広げようとし、棋戦を行う以外にも、「当湖十局囲碁会館」を建てる予定である。三人の中国棋士は一勝もせずに終わったが、平湖の地元の囲碁競技場および普及基地を作るという努力はこれからも続くだろう。

聶衛平九段と徐瑩五段(45歳)が現場解説をしている。
一力遼七段は準決勝で敗退、井山裕太九段が検討に入った。

決勝戦では李世石九段が黒番となった。黒11で早めに隅を取るのはAlphaGoからきた技だが、全盤的な配置として、妥当ではないかもしれない。また、黒27のツケは無謀で、白28でツケだしたら、黒29は渡るしかない。白30で黒の二目を取り、白が早い段階で優勢となった。

( 記事 / 写真 : 楊爍 )

棋声人語 [ 2017年10月3日 ]

第19回阿含・桐山杯決勝戦

対局現場

 南浔は中国天元戦の決勝戦の競技場である同里古鎮と、今年柯潔などの中国棋士がAlphaGoと対戦した烏鎮古鎮と同じように、中国江南の六大古鎮の一つである。江南の古鎮は、小さな橋に水が流れ、石が敷かれた小道を特徴としているが、南浔の開発は相対的に遅れているので、観光客は烏鎮、同里よりすくないが、中国伝統水郷の昔ながらの生活スタイルを保っている。夜になると、古鎮の光が点々と光り、優雅で落ち着いた雰囲気が忘れられない。

 9月11日、第19回阿含・桐山杯決勝戦が南浔で行われた。これで、もう同里古鎮、烏鎮古鎮と同様に南浔も囲碁とのつながりを得た。試合会場は清の時代である光緒の末期に建てられた「糸業会館」である。南浔は清朝の晩期に糸の商売で莫大な財産を得た。糸商人たちは会館を建て、その中で商売について話し合っていた。そして、南浔の大富豪・張家で、囲碁を熱心としていた張澹如氏という人物がいた。張氏は上海で日本の囲碁書物の翻訳に力を入れており、中国囲碁界では「世界に目を向けた」重要な立役者だった。

 百年も超えた優美な古い建物の中で、黒と白で戦う。中国でも珍しいことであり、実に素晴らしいことでもある。このような貴重な機会を得たのは、柯潔九段(20歳)と柁嘉熹九段(26歳)であった。柯九段は中国ナンバーワンであり、初めてチャンピオンを獲得したのは2014年(平成26年)の阿含・桐山杯で、今回は三回目の決勝戦進出だった。この一年、柯九段は三星杯、囲碁自動車ラリー戦の決勝戦で、柁九段に勝ったため、柁九段の天敵とも言えよう。

 だが、中国東北の黒竜江省出身の柁九段は江南の水郷で感覚を掴んだようだ。彼は柯九段の序盤段階でのミスを捉え、局面を最後の勝利までしっかり握った。柁九段は12月に北京で第24回日本阿含・桐山杯の優勝者と年に一度の中日阿含・桐山杯チャンピオン対抗戦をする予定である。

「静心斎」が対局室として設けられた。
解説現場は清の時代に糸商人が蚕を祭る「端義堂」で行われた。

決勝戦では柁嘉熹九段が白で、左辺に先手で実利を得てから、白64のボウシで激しい攻めに転じた。それに対し、柯潔九段の黒65のトビは軽率で、白66に厳しく切断されて苦戦に陥った。

( 記事 / 写真 : 楊爍 )

棋声人語 [ 2017年9月28日 ]

中国女流棋戦は15年目を迎える

 8月31日に中国棋院で、現在中国で唯一行われている女流棋戦の建橋杯の第15回大会の開幕式が行われた。15年間賛助し続けるのは、中国ではそう容易なことではない。賛助してくれた上海建橋学院の周星増理事長は「建橋(グループ)さえあれば、建橋杯は続くだろう。」と改めて方針を示した。

 今回、第15回を迎えた建橋杯だが、初めて棋戦の歴史より若い参加棋士を迎えることになった。今年入段したばかりの唐嘉雯初段は、2004年生まれで弱冠13歳である。彼女は柳思佳初段、汪雨博二段、王思尹初段に連勝し、初参戦にも関わらず、本戦に入った。建橋杯の本戦は16人で、8人はシード選手。予選枠は8つしかない。本戦の第一回戦は8人のシード選手と8人の予選突破の棋士の対戦である。

 もっと驚くべきニュースは、本戦が始まったあと、唐嘉雯の相手は世界女子棋界に40年近く君臨し、「魔女」と呼ばれる芮廼偉九段である。二人は41歳も年が離れている。現代囲碁界の法則からみると、唐初段が生まれた年くらいから、芮九段の実力が落ちてくることが普通である。だが今年、芮廼偉九段は全国運動会囲碁項目にて女子金メダルを獲得した。「鉄女はまだ老いていない」と宣告した芮九段は、中国囲碁界の伝説とも言えよう。

 芮九段と唐初段の対局も中国女子囲碁界対戦の最大年齢差の記録を作った。若者はやはりベテランにかなわなかった。唐初段は百手を超えたら、衰勢に入ってしまい、負けを認めた。ただし、これも15年の建橋杯に関する伝説の一つになった。芮九段は本戦8強戦では5回も建橋杯で優勝した張璇八段と対戦する。二人の年齢は合わせて103歳にも達している。この二人が演出するのは囲碁対局だけでなく、囲碁の心境も表している。いずれにせよ、若者が主流の中国囲碁界では、先輩棋士が試合場で活躍する機会がますます少なくなっている。

芮廼偉九段(左)対唐嘉雯初段。
試合現場

(記事 / 写真 : 楊爍)

棋声人語 [ 2017年9月19日 ]

「00代」が台頭する時代

対局会場

 中国では、2000年及びその後生まれた人は「00代」と呼ばれている。中国棋界の00代は先輩に比べて、名を馳せるのが少々遅れている。現在、00代の一番年長はもう17歳になる。范廷鈺九段、柯潔九段はその年では、もう世界チャンピオンになっている。

 この状況は8月24日、26日に行われた第3回夢百合杯世界囲碁オープン戦の16強戦と8強戦でやっと変わった。謝科五段、陳梓健五段、廖元赫五段の三名の00代棋士が8強に入った。ちなみに、謝科五段が負かしたのは新世界チャンピオン檀啸九段だった。8強戦では陳梓健五段は朴廷桓九段に負けたが、謝科五段は「00代内戦」では僅差の半目で廖元赫五段に勝ち、初めて世界4強に入る中国00代棋士になった。

 だが、この中国00代棋士の話題は16強戦で注目されていた「中韓対決」に取って代わられた。中国、韓国のランキングでここ数年、首位を占めている柯潔九段と朴廷桓九段が早々に遭遇した。試合中、朴九段は実力を十分に発揮し、世界大会で柯九段から三連勝(2016年応氏杯、LG杯、2017年夢百合杯)を果たした。たくさんの愛好者もこれで勝利のはかりは韓国へ傾いていると感じられた。しかし、囲碁は最後にならないと、結果が分からない。たとえどんなに重要な試合でも同じだろう。

 準決勝戦三番勝負は11月中旬に貴州省六盤水市で行われる予定である。朴廷桓九段対謝科五段、朴永訓九段対李軒豪七段。対戦相手の韓国棋士は中国棋士よりもそれぞれ7歳、10歳年上である。これも非常に珍しいことである。

 また、柯潔九段は朴廷桓九段に負け、「世界一」の地位が脅かされた。

(記事:楊爍 / 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2017年9月14日 ]

中国囲碁大会・世界人工知能囲碁オープン戦

 ヨーロッパ囲碁大会、アメリカ囲碁大会、日本大会についで、中国棋院主催の中国囲碁大会も開催の運びとなった。これらの大会はすべて夏休みに開催され、愛好者なら誰でも参加できる。中国囲碁大会では政府の影響が比較的大きく、内モンゴルオルドス市では、政府の支持のおかげで、試合が豊富で会場が豪華であるという、中国の特色に富んでいる。

 中国囲碁大会は各地域のチームによる団体戦、ペア碁、三人チーム碁、女流碁、親子碁、九路碁、ビール碁などからなっている。その先駆けとして、8月8日から18日までの初回の中国囲碁大会では三千余りの人々が参加した。今後もこの大会を続けていく方針のようだ。

 中国囲碁大会でもっとも魅力的なのは、世界人工知能囲碁オープン戦である。日本のUEC杯が終了してから、世界各地の研究員が開発した囲碁AIの交流や対戦に新しいプラットホームが提供された。超越的な存在であるAlphaGoが引退したが、中国のテンセント社が開発した絶芸と日本のドワンゴ社に力を借りた伝統プログラムDeepZenGoは依然として超一流の囲碁AIである。この二つの対決も全世界の囲碁愛好者に注目されている。

 今大会では12の囲碁AIが参戦したが、意外なことに、絶芸は台湾交通大学が開発したCGIとDeepZenGoに負け、三位という結果になった。CGIは近年頭角を現し、今回の試合で「囲碁AI界三強」に入るという偉業を成し遂げた。そして、DeepZenGoはWGCと夢百合杯で連敗したが、今大会でやっと自分の実力を証明した。

 未来は、人間と囲碁AIの並立する世界となるのだろうか。

DeepZenGo代表の加藤英樹が絶芸に勝って、喜んでいる。
世界人工知能囲碁オープン戦の優勝者として、DeepZenGoが
孔傑九段と特別対局をした。CGIが補助してくれたが、孔傑は
やはり中押し負けになってしまった。

(記事:楊爍 / 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2017年9月4日 ]

浙江平湖・当湖十局杯CCTVテレビ早碁戦

張涛六段

 清の乾隆帝の年代、棋士の范世勲(范西屏)と施紹暗(施襄夏)は当湖で大商人に招待され、何局か対戦した。その対局は、後に「当湖十局」と呼ばれるようになり、中国古代囲碁の代表作と言われている。中国囲碁愛好者の中では、広く知られている。

 三百年も過ぎた今、当湖は浙江省嘉興市にあり、平湖市と名付けられた。地元の政府は伝統文化をとても重視し、「当湖十局」というブランドを作り出そうとしている。「当湖十局会館」の建設を始め、また中国棋院、中国中央テレビと一緒に浙江平湖・当湖十局杯CCTVテレビ早碁戦を開催するなどの取り組みを進めている。

 CCTVテレビ早碁戦は1987年(昭和62年)に創立された中国で伝統のある棋戦である。だが、日本のNHK、韓国のKBSと違って、CCTVは冠名だけで、費用は提供しておらず、毎年のスポンサーも違っている。去年の大会は福建省アモイ市が出資したが、今年は浙江省平湖市に移った。そして今回その開幕戦は、CCTVテレビ早碁戦の優勝者と準優勝者が参加する今年のテレビアジア囲碁選手権の会場と同じ「当湖の畔」で行われた。またそれ以外の対局は8月14日から16日に中国棋院で行われた。

 早碁戦は思わぬ展開が起こりやすく、魅力的である。最近、負け知らずの柯潔九段(20歳)は4連勝後、準決勝戦では張涛五段(26歳)に負け、テレビアジア囲碁選手権への出場権を得ることが出来なかった。去年囲碁甲級リーグで15連敗を喫していた張涛五段だが、今回は決勝戦で李軒豪六段(22歳)を負かし、初めての個人優勝を獲得した。偶然にも、張六段は浙江嘉興の出身である。彼はこの重みのある優勝で、故郷に錦を飾った。張五段は、李六段と前回のアジア杯優勝者李欽誠九段と一緒に中国代表として第29回テレビアジア囲碁選手権に参加する。

試合会場の全景
CCTV杯の参加資格はランキング順位によって決まっており、合わせて64人。 兪斌九段(50歳)は最年長としてまだ活躍している。

柯潔九段は得意な白で張涛五段と対戦。黒は白の真ん中の連絡問題を狙い、下辺に手を付けていった。黒95のアタリに白96ノビ出したのだが、柯九段が「生涯最大のミス」と言った手であった。黒97にアテられてから初めて逃げ場がないことに気づき、結局負けてしまった。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年8月16日 ]

嫘祖杯第30回中国囲碁名人戦本戦

 1988年(昭和63年)に創立された中国囲碁名人戦は今年で第30回を迎えた。中国では、囲碁の棋戦を行い続けるのは容易なことではない。この30年、中国社会の激変とともに、囲碁棋戦のスポンサーは、マスコミや囲碁を愛好している企業家から文化イメージを作ろうとする政府機関となっている。長い間、人民日報が主催して行われている中国名人戦が去年、新しいパートナー―である四川省塩亭県人民政府を迎えたのはまさに状況をよく反映している。

 名人戦30周年を記念して、主催者から20万人民元(約330万円)の優勝賞金と、さらに優勝棋士には10万元の「30年特別賞」が与えることになった。柯潔九段(20歳)以外、中国のトップ棋士32人が本戦に入り、5ラウンドのトーナメント戦で、連笑名人(23歳)に挑戦する資格を争う。

 3回戦まで中国棋院で行われ、準決勝戦と挑戦者決定戦は人民ネットのスタジオに場所を移して行われた。8月3、4、6、7日の試合後、挑戦者決定戦に進出したのは芈昱廷九段(21歳)と李軒豪六段(22歳)。芈九段は世界に名を馳せた世界チャンピオンである。それに対して、一つ上の李六段はそのルックスの良さで注目されているが、成績ではまだ芈九段に及んでいない。今回、彼は周睿羊九段(26歳)、唐韋星九段(24歳)などの名手に勝っており、キャリアを伸ばす見込みがある。

 今回の挑戦者は11月に四川塩亭で連笑名人と三番勝負を戦う予定だ。

中国棋院の対局会場
人民ネットスタジオの対局会場

早打ちで、持ち時間をほとんど使わない李欽誠九段は、今回の名人戦でも連続で昼食時間前に終局した。二回戦で前名人の古力九段と対戦したのだが、古九段も少年時代に戻ったかのように早碁を打った。古九段が打った黒133のキリが妙手、白がどのように応じても損は避けられない。しかし、黒139のノビのあと、141、143の二目取りは早かった。局後の検討によれば、139でAのカケツギを打っていれば、形勢はまだ細かいとのこと。実戦では、上辺を白に先に打たれ敗勢になった。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年8月9日 ]

第8回四維数創杯中国囲碁竜星戦決勝戦

対局会場

 第8回からパラマストーナメント方式を採用した中国囲碁竜星戦は7月25日、26日に最後の決戦を迎えた。本戦の2グループのそれぞれの最多勝者2名、そして両グループで最後に1勝した2名である柯潔九段(20歳)、李欽誠九段(18歳)、辜梓豪五段(19歳)、楊鼎新五段(19歳)が四強に進出した。そして、4月に行われた準決勝戦で柯九段と李九段が勝ち上がり、決勝戦の対局カードは決まっていた。

 柯潔九段は5、6、7月に「中国烏鎮囲碁サミット」、「囲碁自動車ラリー」、「中国運動会囲碁種目」と連続して大会があり、スケジュールは非常にタイトだったので、7月末にやっと決勝戦が開かれることになった。試合は中国棋院の貴州天元囲碁チャンネルのスタジオで始まった。竜星戦は一手30秒の早碁で、通常では1局あたりの対局時間は1時間半から2時間くらいなのだが、柯九段も李九段も打つペースが早く、決勝戦三番勝負の1局目は1時間で終わった。1局目で快勝した柯潔九段はそのままの勢いで、2連勝で李欽誠九段を負かし、初めて竜星戦で優勝した。そして、芝野虎丸七段と第4回中日竜星対抗戦で対戦することになった。

 柯九段は優勝して間もなく、20歳の誕生日を迎えた。CCTV 杯、囲碁自動車ラリー戦、中国運動会囲碁種目などの大会で連続優勝し、その実力を大いに見せつけた。彼は、間違いなく中国囲碁界及び世界囲碁界の第一人者と言えよう。中国棋院の記録によれば、今回の優勝で、2014年(平成26年)の阿含・桐山杯、2015年(平成27年)の百霊杯、理光杯、威孚房開杯、三星杯、2016年(平成28年)の夢百合杯、阿含・桐山杯、三星杯に続く、9つ目のタイトル獲得となった。

決勝戦二局目で柯潔九段が白番。両方は右上の角で天下コウを争っていた。 黒223とコウを取った時に、白224でそばコウを打てば、白はやはり優勢だった。 ただ、黒は大石が死んではいけないと思い、黒225と応じたのだが、これがこの黒の敗着となった。黒225でAとコウを解消していたら、白は黒の大石を取り、続いて黒はBと下辺を取ることになり、これは黒逆転となっていた。この一局は柯潔九段の「強い者は運も強い」というのを表した一局であった。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年8月2日 ]

第14回倡棋杯準決勝戦・第4回世界大学生囲碁選手権戦

 これまで、香港の中文大学、台湾の清華大学、カナダのトロント大学でおこなわれてきた世界大学生囲碁選手権戦は、今年で第4回を迎え、7月9日から11日までタイの正大管理学院で行われた。この棋戦は上海応昌期囲碁教育基金会により創立された大会で、今回はヨーロッパ、アメリカ、アジア、オーストラリアの4つのブロックにある72校から来た学生たちがバンコクに集結した。棋力で五つの組に分けられ、試合、旅行、囲碁交流、会合を通じて、「囲碁で友達に会う」という目的を果たした。

 五つの組の内訳は、E組は女子選手、ほかの4組はそれぞれアマ五段以上(A組)、アマ初段から四段(B組)、アマ5級から1級(C組)、アマ5級以下(D組)となっている。B、Eの二組の優勝者は中国の学生で、C組の優勝者はベトナムの学生、D組の優勝者は韓国の学生だった。そして実力が一番高いA組では、日本の専修大学の学生である大関稔が、中国学生が優勝を独占してきたこれまでの流れを止めて、歴史を塗り替えた。彼が日本のアマ名人や井山本因坊、王立誠九段などのプロにも勝ったことがあるという実績を聞いて、中国棋界はみな驚いたのだった。

 また去年から、中国の倡棋杯プロ囲碁選手権戦準決勝戦と世界大学囲碁選手権戦は同じところで実施されることになっている。ただ今年は中国全国運動会の影響があり、準決勝戦三番勝負のうち、第1局は既に5月に北京で行われ、第2局以降はバンコクで行われることになっていた。結果は、5月に勝利した江維傑九段(25歳)、檀啸九段(24歳)がそれぞれ善戦を続け、江九段が陳耀燁九段(27歳)に2勝1敗で、また檀九段が2連勝で古霊益五段(26歳)に勝ち、10月に上海で行われる決勝戦に進出した。

 7月11日、試合が終わった檀啸九段、古霊益五段と兪斌九段(50歳)などの棋士たちは大学生の試合会場を訪れ、幸運にも抽選で選ばれた愛好者と6面打ちの指導碁をした。プロ棋士、愛好者と大学生の三者は囲碁を通してつながった。

A組上位6名選手による記念撮影、左端が優勝者の大関稔さん
大学生選手権の会場風景

倡棋杯準決勝戦の対局会場
檀啸九段による指導碁

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年7月25日 ]

金立杯海峡両岸チャンピオンタイトルマッチ

金立会社会長の劉立栄氏(44歳、中央)が党毅飛九段(左)、
陳耀燁九段(右)を表彰する。(写真提供sina)

 5月の中国烏鎮で行われた「未来の囲碁サミット」でアルファ碁に3連敗で敗れて以降、中国囲碁界の第一人者・柯潔九段(19歳)は、劇的に変わったようだ。5月29日から7月17日まで、一カ月半にわたって行われた22局対局で全勝した。陳耀燁九段(27歳)、古力九段(34歳)、唐韋星九段(24歳)も含めたトップ棋士を負かし、まるで彼らを頂から見下ろしているようだ。

 中国囲碁界は最近、「柯潔の連勝はいつまで続くか」、「誰が柯潔の連勝を阻止できるか」という話題で持ち切りだった。その連勝記録に終止符が打たれたのは、7月19日に行われた囲碁甲級リーグでの一局。柯潔が第一人者となる前に、長い間中国でランキング一位だった時越九段(26歳)が柯潔の大石を仕留めた。

 連勝が阻止されたあと、柯潔は飛行機で重慶へ行き、2017年の金立杯海峡両岸チャンピオンタイトルマッチに参加した。この棋戦は中国囲碁甲級リーグ戦を十年以上協賛してきた金立携帯会社によって創立された。主にここ一年間での囲碁世界戦の優勝者と台湾棋士が参加する。連勝記録が阻止されたことでペースを乱していたのか、柯潔九段は第一回戦で范廷鈺九段(21歳)に敗れ、残念ながら初戦敗退を喫した。

 タイトルマッチの結果だが、半年前にLG杯世界囲碁棋王戦で優勝した党毅飛九段(23歳)が今回の試合でも健闘し、7月21日から23日まで王元均七段(20歳)、范廷鈺九段と陳耀燁九段を倒し、初参加で優勝を飾った。

(記事:楊爍 )

棋声人語 [ 2017年7月18日 ]

第13回中国運動会囲碁種目

 24年ぶりに、囲碁が改めて中国運動会の競技に戻った。ただし、正式種目ではなく「群衆種目」になっている。いわゆるオリンピックの公開競技のようなものだ。競技場は正式種目が行われている同じ天津市に設けられたが、7月5日から8日までに日程が早められ行われた。正式種目の球技、陸上、水泳などは8月に入ってから始まる。

 24年前に北京で行われた第7回全国運動会では、囲碁の種目は男子団体・女子団体の二つだったため、金メダルの数も二枚しかなかった。しかし、今回は「公開種目」として、金メダルの枚数は五枚となった。プロ男子個人、プロ女子個人、アマ男子個人、アマ女子個人およびアマ団体。アマが獲得できるメダル数はプロ棋士に勝っており、またアマ棋士の参加者数もプロ棋士に勝るかもしれない。これが「群衆種目」を行う意図の一つである。中国の国家政策により、体育の機能はどんどん「全民健身」の方向へ向かっている。

 しかし、広く注目されるのはやはり精鋭選手たち。プロ男子のグループでは、中国の烏鎮で行われた「囲碁の囲碁サミット」以来、不敗を続けている柯潔九段(19歳)が、李喆六段(28歳)、陳耀燁九段(27歳)、范廷鈺九段(20歳)、唐韋星九段(24歳)、楊鼎新五段(18歳)、謝璽豪五段(18歳)、陶欣然六段(23歳)に連勝し、七戦全勝の成績で優勝を収め、改めて「中国一」の実力を証明した。また、プロ女子のグループのほうが人々をより驚かせた。三十年前に中国運動会に参加した芮廼偉九段(52歳)は六勝一敗で於之瑩五段(19歳)などの新鋭を抑え、再び優勝を果たした。

写真:男女プロ個人戦の表彰式(中国マインドスポーツネット提供)

(記事:楊爍 )

棋声人語 [ 2017年7月11日 ]

第11回春蘭杯決勝戦

対局現場(写真提供:sina)

 中国が創立した国際棋戦「春蘭杯」の第10回大会は、2015年(平成27年)に終わった。第10回春蘭杯で優勝したのは中国の古力九段(34歳)。当時30過ぎた彼は、十年近く続いてきた「30歳以上の世界チャンピオンはいない」という囲碁界の常識を打ち破って、新鋭が次々に出て活躍している時代に「老将はまだ健在」ということを示した代表的な出来事だった。

 2017年(平成29年)6月23、25、26日、古力九段が広東省恵州市で行われる第11回春蘭杯決勝戦の現場に再びやってきた。だが今回は参加者ではない。自分の弟弟子で聶衛平九段(64歳)の弟子である檀啸八段(24歳)を応援しに来たわけだ。面白いことに、檀啸八段の向かいに座るのは、また30を超えた棋士の朴永訓九段(32歳)である。古九段の登場が、30を過ぎた朴九段に前回と同じように勝利を与えるのか、それとも幸運を弟弟子の檀八段にもたらすのか。

 名をはせてから十数年、檀啸八段はもう広く知られているが、世界戦のタイトルはまだ一度も獲得していない。そして、今回の春蘭杯で初めて世界大会の決勝戦に進出した。自信満々の彼は決勝戦三番勝負の第1局で勝ち、第2局ではヨセの実力で知られている朴永訓九段と後半で勝負を決めようとする。「目には目を歯には歯を」。しかし、第2局では檀啸は優勢を失って、半目で敗北してしまった。だが、第3局ではヨセでの戦いの状況はまた一変した。前半劣勢だった檀啸はヨセの段階で逆転に成功し、朴永訓を中押し負けに追い込んだ。これで個人では、初めての世界タイトルを獲得し、九段に昇格した。

第11回春蘭杯決勝戦三番勝負の第3局で檀啸八段は黒で朴永訓九段と対戦。細かい局面で朴九段は白132が堅く守り、後半に対する自信を見せた。朴九段のあだ名「ヨセの死神」を思い出さずにはいられない。だが、今回では「ヨセの死神」はヨセで逆に死んでしまった。黒133が巨大な一手、形勢は知らないうちに黒のほうへ傾けていた。

(記事/写真:楊爍)



第3回Mlily夢百合杯本戦

 AI時代が到来してから、囲碁の世界でも重要なターニングポイントを迎えている。AIを受け入れようか、堅く断ろうか、はっきり異なった意見が出てきている。「AlphaGo」が引退を公表し、中国のIT会社テンセントが開発したAI「絶芸」の実力が遙かにプロ棋士を超えた状況の中、中国主催の夢百合杯が極端な一歩を踏み出した。AIを正式な囲碁大会に招待したのだ。夢百合杯は日本のDeepZenGoをワイルドカードとして選び、63名の人間棋士と同じ競技場で戦わせた。

 この決定に対して、賛成の声も反対の声もあった。柯潔九段(19歳)ははっきりと「支持しないし、受け入れない」と明言。主催側は「AIが人間の試合に参加するのは今回だけです。」と応答した。DeepZenGoの加藤英樹代表は開幕式で率直に「優勝を狙っています。」と宣言した。そのDeepZenGoは、1回戦で韓国の強い新鋭申旻埈五段(18歳)に楽勝したが、2回戦で中国の中堅棋士である王昊洋六段(28歳)に半目で負けた。今回、DeepZenGoの死活での欠陥がもう一度現れたようだ。

 DeepZenGo以外、6月19日、21日に北京中国棋院で行われた今回の本戦1、2回戦では、もう一つの注目点があった。中国に生まれ、8歳にカナダに移住した李立言初段(23歳)が中国の程宏昊初段(17歳)とあの有名な陳耀燁九段(27歳)に連勝し、非東アジア棋士のとして奇跡を起こしたのだ。また、うらやましいことに、6月20日に李初段は同じ北アメリカの代表である殷明明初段(27歳)と北京で婚姻届けを出し、新しいプロ棋士カップルが誕生となった

対局会場
DeepZenGoの試合は特別対局室で行われた

李立言初段が黒番で陳耀燁九段と対局。黒57は大ケイマして中央の模様を広げる手。白58の中央での二間ビラキに対しは、黒59はいままで見たこともない方法で地を稼いだ。本局では、李立言初段が序盤からしっかりと優勢を維持し、強大な世界チャンピオンを負かした。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年7月5日 ]

衢州爛柯杯中国囲碁団体戦

 「爛柯」というのは中国古典にある囲碁にまつわる伝説である。ある木こりが爛柯山に入ったら、童子が囲碁をやっているのを見かけた。それを夢中になって見ていたら、時間があっという間に過ぎてしまうという。爛柯山の所在地として、浙江省衢州市はこれを文化ブランドにし、囲碁活動を支援している。2017年6月8日から17日までの全国囲碁団体戦がここで行われた。

 中国の棋戦ではあるが、実は世界の囲碁棋士も参戦する共同の競技場である。今回の試合には、14名の韓国棋院所属棋士、5名の日本棋院所属棋士、12名の台湾棋院所属棋士、4名のヨーロッパ棋士が参加した。海外からの選手も含め、参戦棋士の総人数は216名に達した。対局は、男子乙級、男子丙級、女子乙級の三組に分けられ実施された。第一線で活躍をしていない大多数の中国棋士にとって、この棋戦は1年で一番重要な試合である。

 どこのチームが上位リーグに昇格するのかが団体戦の一番見どころであるが、今年は浙江、湖北両省が昇格枠を独占した。去年降格した浙江省男子チームが再昇格を果たし、また地元の衢州チームも昇格を決めた。今期の囲碁甲級リーグで戦っている二つの杭州チームを加えて、来年は四つの浙江チームが甲級リーグで争うことになるかもしれない。女子のほうでは、甲級に昇格したのは去年の降格チームであった。だが、湖北の女子チームは二つのチームになっている。助っ人選手の王祥雲三段(27歳)、呉侑珍五段(19歳)の武漢チームの昇格は予想内だったが、湖北の地元棋士である葉桂五段(42歳)、黎春華四段(44歳)が多くの後輩を負かし、甲級に戻ったのは感服せずにはいられなかった。

 伊田篤史八段(23歳)、余正麒七段(22歳)、許家元四段(19歳)、芝野虎丸三段(17歳)の中日友好チームは乙級で結果を残した。五年前の最下位で降格の結果と比べたら、著しい成長ぶりである。一方、四名のヨーロッパ棋士にはそれほどの幸運がなかった。7ラウンドの丙級試合では一勝も取れなくて、26チームの中で最下位となった。だが、四名それぞれ対中国プロ棋士の一勝を取った。これも素晴らしいスタートと言えよう。

日本チーム
ヨーロッパチーム

黒竜江チームを代表する日本棋院の牛栄子初段(18歳)が杭州チームの代表の台湾棋院兪俐均初段(18歳)と対局。
最年長の棋士王群八段(60歳)

(記事/写真:楊爍)



「夢の頂点」囲碁自動車ラリー

 チベット地域の風光を宣伝することを目的に、中国囲碁界で伝統的な棋戦と異なった新たな棋戦が創立された。棋士はドライバーと組んで、6月2日に四川省成都市から出発し、高海抜のチベットをめざし、西へ向かう。そして、6月14日にエベレストのふもとにあるエベレストベースキャンプで優勝者を決める。六名の参加棋士は柯潔九段(19歳)、古力九段(34歳)、陳耀燁九段(27歳)、柁嘉熹九段(26歳)、周睿羊九段(26歳)、芈昱廷九段(21歳)である。彼らは二組に分けられ、総当たり戦を行う。トップが二人いる場合は、レースの成績で順位を決める。

 試合のコースはたくさんの観光スポットを通過する。例えば、貴州省安順市の大渡河、チベット自治区昌都市博物館、波密県巴卡観光村、ラサ市のポタラ宮宝物館など。対局会場の周りもチベット独特な雰囲気で囲まれている。そして、タンカ、プレイヤーフラッグスなどがどこでも見られる。6ラウンドの対局後、柯潔と柁嘉熹がそれぞれの組のトップとして決勝戦に進出した。決勝戦は海抜5200メートルのところで行われたので、棋士の体の具合や環境なども配慮した結果、まずは6月12日にポタラ宮のそばで二時間の試合をした。それから、一日の移動を経て、6月14日にエベレストベースキャンプで最終決戦をした。柯潔九段は中押し勝ちを収め、200万人民元(約3200万円)の優勝賞金を獲得した。

 優勝賞金は中国棋戦の中で一番高い。また、この棋戦はクロスオーバーの大きさ、試合会場の海抜、そして参加棋士の実力などで本物の「頂点の対決」と言われている。まさに棋戦の名称に適応しているといえるだろう。

ポタラ宮のそばで最後のラウンド
エベレストベースキャンプで決勝戦後半の戦い

決勝戦では中国棋戦では珍しく「封じ手」が採用された。6月12日の午後、白の柯潔九段は左辺の黒の本拠地を荒らした。黒が99のオシを着手後、柯潔は白100を封じ手として棋譜用紙に書き込んだ。これは黒が必ず応じる先手の手である。その後、白は地を取り続けていた。黒は右辺の白を攻撃したが、効果が出せずに負けてしまった

(写真提供:囲碁天地 記事:楊爍)

棋声人語 [ 2017年6月26日 ]

華夏基金杯 第38回世界アマチュア囲碁選手権

出場選手による記念撮影(写真提供:sina)

 2010年(平成22年)以来、世界アマチュア囲碁選手権は日本以外でも行われるようになり、これまで中国、韓国、タイで大会が行われた。この2年、中国は国際囲碁連盟(IGF)の会長国で、連続で江蘇省無錫市と貴州省貴陽市で行われた。IGF会長を務めているのは中国中信集団董事長の常振明氏(60歳)。少年時代に北京囲碁チームで訓練した経験があるということで、棋界では知られている人物である。今回の第38回世界アマチュア囲碁選手権を援助したのは、まさに中信集団傘下の華夏基金であった。

 ホームで対局できるのは、間違いなく中国選手にとって一番有利な条件と言えよう。6月3日から7日、二年連続で中国晩報杯優勝した実績を持つ中国代表の白宝祥7段(24歳)が、8戦全勝という戦績で優勝した。白7段は2011年(平成23年)、2016年(平成27年)に続き、三度目の優勝を飾った。また、世界アマチュア囲碁選手権は世界での囲碁普及という点で意義のある大会である。IGFの創立は世界アマチュア囲碁選手権より三年遅く、1982年(昭和57年)に創立された時の加盟国・地域はわずか29だった。それから35年経った今、ジョージアの加盟とともに、この数字は77に達している。

 試合の前に、IGF総会が開かれた。日本棋院理事長の團宏明氏(69歳)、韓国棋院事務総長の劉昌赫氏(51歳)がIGF副会長に就任し、中国棋院の新しいリーダーである羅超毅(57歳)が事務総長に就任した。また、世界ペア碁協会副会長の滝裕子氏(72歳)と応昌期教育囲碁基金会理事長の応明皓氏(74歳)が理事として再任された。そして来年、IGF会長国の番は日本にまわってくる。

第5回戦、中国の白宝祥は黒番で北朝鮮の李真雄(18歳)と対戦。情報技術が足りないため、神秘な北朝鮮の選手はアルファ碁についてほとんど知らないようだが、その実力は中国棋界を驚かせるものだった。白30と軽く打つ手、また白34のカタツキに対し黒35が反撃した時の白の応対も相当柔軟であった。数手を交わした後、白44は右上隅に入った。本局は白が長期間優勢を占めていたのだが、ヨセの段階に入って、なんとか白宝祥が逆転し勝利を収めた。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年6月19日 ]

第7回姜堰黄竜士精鍛科技杯 世界女子囲碁団体戦

対局会場(写真提供:sina)

 6月3日から6日、「第7回姜堰黄竜士精鍛科技杯 世界女子囲碁団体戦」第2ステージが、引き続き江蘇省姜堰市で行われた。第1ステージ終了時点で、中国と韓国チームは、それぞれ選手が3名残っており、また日本チームは2名が残っていた。

 第1ステージでは中日韓の争いは一進一退で、各国の若手棋士が勝利を収めた。しかし、第2ステージでは完全に「呉家天下」で、韓国チームの二人の「呉」棋士(呉政娥三段、呉侑珍五段)が実力を示した。二人とも二連勝を収め、主将の崔精七段(21歳)が出場しないまま、韓国チームの優勝を決めた。

 まずは呉政娥三段(25歳)、彼女は第1ステージで中国の陸敏全三段(18歳)、日本の向井千瑛五段(29歳)に勝利した後、さらに中国の魯佳二段(29歳)、日本の藤沢里菜三段(18歳)にも勝った。つづいて、中国チーム副将の李赫五段(25歳)が呉政娥に辛勝し、日本チーム主将の謝依旻六段(27歳)にも勝利した。だが次に登場した韓国副将の呉侑珍五段(19歳)が中国の李赫五段と於之瑩五段(19歳)を負かした。中国女王の於之瑩だが、今回は前回のように呉侑珍、崔精に連勝し、中国を優勝させることはできなかった。

 今まで七回行われてきた本棋戦は、中国が優勝4回、韓国が優勝3回となっている。中日韓「三国」による競争は囲碁の世界で長く続いてきた。日本棋士の頑張りにより、今後の三国間の競争はもっと素晴らしいものになるだろう。

第13戦、於之瑩が黒番で呉侑珍五段と対戦。黒49と白を切断して攻勢に出ようとしたところだが、白52のツケが柔軟な一手だった。白は中央の一子を軽く扱い、下辺で生きて優勢を確立した。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年6月2日 ]

中国烏鎮囲碁サミット

対局会場(写真提供:囲碁天地)

 あれから一年、2017年5月23日~27日に中国烏鎮にて「アルファ碁との再決戦」の幕が上がった。2016年の時は、人間側は李世乭九段(34歳)一人のみが参戦したのだが、今回中国は強力なメンバーを揃えた。三番勝負を戦う柯潔九段(19歳)以外に、古力九段(34歳)、連笑八段(23歳)がペア碁に、陳耀燁九段(27歳)、時越九段(26歳)、周睿羊九段(26歳)、唐韋星九段(24歳)、芈昱廷九段(21歳)が相談碁にそれぞれ参戦した。ほかの角度からアルファ碁の実力を測ろうという試みである。

 アルファ碁の成長があまりにも速いので、今回の試合の勝敗は最初から予想されていた。 柯潔は3連敗を喫し、一度感情をうまくコントロールできずに泣いてしまったこともあった。また、連笑八段がアルファ碁とペアを組んで古力九段・アルファ碁ペアから一局を勝利した以外では、人間の棋士は全て敗退した。

 だが、今回のイベントの意義は勝敗をはるかに超えたものであった。AI囲碁界で最も優れた成績を残したソフトとして、アルファ碁は今回の勝利後、今後の対局を辞めると宣言したが、これは「引退」に等しいことだ。そしてGoogle DeepMind社は、近くアルファ碁の最新開発方法を公開する予定とのことである。これをGoogleが出した新しいハードウェアTPUと組み合わせたら、未来の囲碁AIが人間の棋士を超える力を備えることが容易になるという。2016年、柯潔九段をはじめ囲碁AIのレベルに対して疑問の声をあげたプロ棋士たちは、みんな黙って公開された人間の囲碁経験を超えたアルファ碁同士の対局を研究し始めた。

 囲碁の世界において大変革時代が本当に到来したようだ。

柯潔九段とアルファ碁との三番勝負第3局。この時点で白の敗北はもう決まっていた。柯潔は白126を打った後、対局室の看板の後ろに入り十数分も泣いてしまい、これは広く報道された。本局は囲碁史上、勝敗のはっきりしている名勝負と言えよう。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年5月23日 ]

第1回新奥杯世界囲碁オープン戦

 中国で新しく創立された国際棋戦「新奥杯」は2016年5月から始まった。11月に河北省廊坊市で本戦3回戦までが行われ、翌年2017年5月6日から12日にかけて、 準々決勝戦と、準決勝戦が同じく廊坊にて行われた。ベスト8の中で七人が中国棋士で、準々決勝戦で韓国の申真諝八段(17歳)が中国の周睿羊九段(26歳)に敗れ、中国勢が優勝することが決まった。

 ベスト4に残った棋士たちは、それぞれ特徴があり、その対局から目が離せない。柯潔九段(19歳)は今ブレイクしている棋士で、近くアルファ碁と「人間 vs AI」の最終対戦に挑むことになっている。周睿羊九段はアルファ碁の影響を特に受けている棋士で「アルファ羊」とも呼ばれている。そして、李喆六段(28歳)は大学で勉強して、AI理論を深く研究しており、また今回の「復活」もかなり注目されている。彭立堯六段(25歳)は、長い間それほど目立たない棋士だったが、今回ダークホースとして勝ち上がってきた。

 準決勝戦は三番勝負で、柯九段も李六段も双方ともアルファ碁の打ち方を試したが、李六段はやはり学業が忙しいのか熟練度が下がり、2連敗で敗退した。もう一方の対戦では、彭六段が粘り強い一面を表した。第1局に敗れたものの、第2局、第3局で連勝し、柯九段と優勝争う資格を勝ち取った。

 新奥杯の優勝賞金は220万人民元(約3,600万円)、決勝戦五番勝負は年末に行われる予定である。昨年から予選が始まっており、まさに「長距離」の戦いと言えよう。


準決勝戦の対局会場(写真提供:囲碁天地)
準決勝戦では李喆六段が黒番で柯潔九段との対戦、布石の局面である。白2と直接三々に打ったのはアルファ碁の影響で星を諦めるのが現在の潮流である。(星に打つとすぐ三々に入られる心配がある)また、白6のカカリに対して黒7と無視して手抜きをし、次に白8の両カカリとなるのもAIでよくある打ち方である。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年5月16日 ]

第13回中国全国運動会大衆種目 囲碁プロ組選抜戦

 現代の中国囲碁界の発展は、ほぼ政府の戦略に依存するものであった。1956年(昭和31年)、囲碁は政府により体育種目に入れられ、1959年(昭和34年)には、第一回全国運動会で競技として実施された。全運会で与えられるメダルが刺激となり、各地の体育局が相次いで囲碁チームを設立した。これにより棋士の養成と訓練の体制が保障され、現代中国囲碁の基礎が確立された。

 30年ほど経ったころ、中国政府の体育戦略に変化が見られた。オリンピックでの成績がより重視されるようになってきて、非オリンピック種目がだんだん冷遇されるようになった。1993年(平成5年)は囲碁が全運会で種目として最後に実施された年だった。ちなみに、聶衛平九段(64歳)、馬暁春九段(52歳)、そして次の世代の常昊九段(40歳)、古力九段(34歳)、二代の中国トップ棋士が全国運動会に参加したことはない。

 2017年、天津市で行われる第13回全国運動会では「大衆種目」が設けられた。正式種目ではないが、メダルも与えられる。囲碁は大衆種目に採用され、各地の体育局において囲碁に対する注目度が再び高まってきた。囲碁はプロ男子、プロ女子、アマ男子、アマ女子、団体戦の五つに分けられ実施される。24年ぶりに囲碁が全運会に戻ってきたのだ。

 そんな中、プロ組の予選戦が、5月1日に中国棋院で行われた。25の省や市からやってきた62名のプロ棋士が参加し、1回戦または2回戦のトーナメントで、男女それぞれ15人の決勝戦進出者が決まった。24年ぶりに行われた全運会囲碁試合だが、前回の試合(1993年)に参加したのは芮廼偉九段(53歳)しかいなかった。芮九段以外、ほかの棋士たちは全員30歳未満である。決勝戦は7月の初めに天津で行われる予定。


予選会場
芮廼偉九段は白番で李赫五段(25歳)と対局。今の棋士はアルファ碁に深く影響され、黒の7手目で直接三々に入った。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年5月12日 ]

第7回姜堰黄竜士精鍛科技杯世界女子囲碁団体選手権 第1ステージ

 中日韓三国を代表するトップ女流棋士による団体トーナメント戦「姜堰黄竜士杯」、今回の第7回でスポンサーが変わり、また試合日程も一日二局に変更となった。4月20日から23日、江蘇省泰州市姜堰区で第1ステージ(第1~7戦まで)が行われた。偶然なことなのだが、日程が短くなったこともあり、中日韓三国はともに若いメンバーを派遣した。韓国の宋慧領二段が20歳、日本の牛栄子初段が17歳、中国の陸敏全三段と周泓余二段はまだ18歳と15歳で、四人とも初めてこの棋戦に参加した。

 抽選会では、主催側が当地の有名なお茶をくじとして用意し、三国の代表団の団長がそれを引いた。日本チームの団長である蘇耀国九段(37歳)は運よく「静」と書いてある茶缶を取り、韓国チーム団長の睦鎮碩九段(37歳)、中国チーム団長の王磊八段(39歳)が「動」と書いてあるものを引き、第1ラウンドは中韓の対決となった。

 第1ステージでは中国チームの二人の若い棋士が自分の力を見事に発揮した。周泓余二段は韓国の宋慧領初段に勝ち、陸敏全三段は韓国の金崙映四段(28歳)、日本の王景怡二段(30歳)に連勝した。中国チームはまだ魯佳二段(29歳)、李赫五段(25歳)、於之瑩五段(19歳)の三人の主力が残っている。日本チームは、牛栄子初段が周泓余二段との「最年少勝負」に勝利したが、王景怡二段は優勢な形勢だったが死活でミスがあり、向井千瑛五段もまたあと一歩のところで敗退したので、今残っているのは謝依旻六段(27歳)と藤沢里菜三段(18歳)の二人となっている。そして、韓国チームは呉政娥三段(25歳)が第6戦、第7戦で陸三段と向井五段に連勝した。韓国チームは呉政娥三段と呉侑珍三段(19歳)と崔精七段(21歳)の三人が残っている。

蘇耀国九段が抽選
王磊八段が抽選

睦鎮碩九段が抽選
開幕戦で中国の周二段が韓国の宋二段を打ち負かした

王景怡二段は黒番で中国の陸敏全三段と対戦。大模様作戦を展開した黒が白の大石を全滅させかけている状況。白164のアタリに対して、黒165と左上隅を捨て、次の白166ハイが最後の試練の手であった。ただ、黒167が痛恨の一手でAとノビるか、Bのマガリであれば、黒の勝利は確実だった。実戦では白168に対して黒から手がなくなり、逆にとられることとなった。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年5月1日 ]

第19回阿含・桐山杯予選戦

対局会場

 阿含宗管長の桐山靖雄氏(1921-2016)が去年お亡くなりになってから、彼が創立した阿含・桐山杯はこれからどうなるか、注目が集まっている。そんな中、2月に第24回日本阿含・桐山杯はいつも通り開催され、4月には第19回中国阿含・桐山杯も北京で開かれた。128名の棋士で中国棋院の二階のロビーはいっぱいとなり、みんな桐山靖雄手書きの「八風不動」と揮毫のある扇子を手にしていた。二日間で4ラウンドの早碁対局を行い、本戦進出の8名を決める。

 阿含・桐山杯にはアマチュア選手も参加できる。何回も中国のアマチュア大会で優勝した唐祟哲アマ七段(25歳)は、趙毓彩二段(19歳)、方天豊八段(54歳)に連勝し、また現在プロを目指している成家業アマ六段(15歳)は王晨星五段(25歳)、古霊益六段(25歳)の男女のベテランに勝って、トップアマチュア選手がプロに負けず劣らずの実力を有していることを示した。

 今回の阿含・桐山杯で直接本戦に入ったのは柯潔九段(19歳)、陳耀燁九段(27歳)、唐韋星九段(24歳)、党毅飛九段(22歳)、柁嘉熹九段(26歳)、周睿羊九段(26歳)、芈昱廷九段(21歳)、時越九段(26歳)。みな世界戦で優勝したことのある有名選手ばかりである。だが、予選を突破した八名の棋士はほとんど無名の新人だった。王沢錦五段(18歳)、楊楷文四段(20歳)、陳正勲四段(18歳)、胡鈺函三段(20歳)はまだ囲碁甲級リーグでは主力選手にはなっていない。今回の本戦は新人が名手に挑戦する面白い舞台になりそうだ。

本戦棋士による記念撮影
唐祟哲アマ七段
成家業アマ六段

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年4月25日 ]

第31回中国天元戦決勝戦

表彰式会場、左は陳耀燁九段、右は連笑八段。 写真提供:sina

 天元戦は中国囲碁界で一番古いタイトル戦である。1987年(昭和62年)創立されて以来、31回も行われてきた。だが、天元戦が挑戦手合制のため、30回まで馬暁春九段(52歳)、劉小光九段(57歳)、聶衛平九段(64歳)、常昊九段(40歳)、黄奕中七段(35歳)、古力九段(34歳)、陳耀燁九段(27歳)の九名しか優勝者がいない。特に、陳耀燁九段は2009年(平成21年)から、天元を八年も一人占めしている。

 しかし、中国の囲碁界はとっくに若手の世界になった。陳天元はまだ30歳未満だが、中国では珍しい「年長チャンピオン」である。彼より年上の棋士は頂点に立った人は一人もおらず、彼とほぼ同じ年の朴文尭九段(28歳)はほとんど棋戦には参加していない。陳天元は「10代」によって統治されている棋界では独特な存在となった。この八年間、陳天元は何度も自分より年下の挑戦者を打ち負かした。周賀璽五段(25歳)、柯潔九段(19歳)、芈昱廷九段(21歳)、唐韋星九段(24歳)など。特に、近年、期待されていない状況の中でも天元を守り切った。だか、今回「天元」は彼に好意を示さなかった。

 2017年の予選を突破してきた挑戦者は連笑名人(23歳)だった。二年前、連笑八段が陳耀燁九段に挑戦し、名人のタイトルを奪取、今まで連覇している。今回再び連名人が陳天元に挑戦することとなった。4月11日、13日、2回の挑戦手合の対局では、完全に若い名人に主導権を握られた。今回の名人と天元の「頂上対決」では名人が勝利した。これで、連笑八段は名人・天元二冠となった。

今回の天元決勝戦で対戦した両棋士の棋風は明らかに異なっている。陳耀燁九段は地を取るのが好きだが、連笑八段は攻めるのが得意である。三番勝負の第2局では、白番の連八段は白66のカタツキにより全局的に攻撃する意図を示したのだが、陳九段は黒69のカカった後、露骨にも黒71の二線へケイマにすべった。この進行は二人の棋風の違いを明確に表している場面である。結局、連八段の攻撃が成功し、左上の四分の一が自然に地になって、勝利を収めた。

(記事:楊爍)



中国烏鎮囲碁サミット記者会見

中国烏鎮囲碁サミット

 グーグル傘下のDeepMind社により開発された囲碁AI「AlphaGo」は2016年3月に韓国のトップ棋士李世乭九段(34歳)に勝ってから、ネットで一度短期的に姿を現したが、ずっと謎に包まれた状態だった。だが、開発が続けられているAlphaGoと中国棋士との頂上対決が必ず行われると多くの人が信じており、この予想は2017年4月10日に、現実のものとなった。

 この日、「烏鎮囲碁サミット トップ棋士+DeepMind AlphaGoともに囲碁の未来を創ろう」という記者会見が北京で行われた。100を超えるマスコミが中国棋院に殺到した。会見では、烏鎮囲碁サミットが5月23日から27日まで浙江省桐郷市烏鎮で行われると発表された。烏鎮は世界インターネット大会がずっと実施されている土地でもある。まず、このサミットで一番重要なイベントは柯潔九段(20歳)とAlphaGoの三番勝負である。そして、陳耀燁九段(27歳)、時越九段(26歳)、周睿羊九段(26歳)、唐韋星九段(24歳)、芈昱廷九段(21歳)がチームを組んで検討しながらAlphaGoと対戦する「チーム碁」や古力九段(34歳)、連笑八段(23歳)がそれぞれAlphaGoと組んでペア碁を戦うことも発表された。柯潔九段は会見で「絶対勝つという気持ちと必死な信念を持って今回の試合に臨もうと思います。」と語ったが、AlphaGoと李世乭の五番勝負と比べると、今回は勝負色が大分薄めた。

 関係者によると、中国烏鎮囲碁サミットはAlphaGoの最後の顔みせかもしれないそうだ。グーグルがAlphaGoに対する開発もこのイベントの終わりとともに終幕を迎える。しかし、AlphaGoの影響で、日本の「DeepZenGo」、中国の「絶芸」などの囲碁AIがトップの人間棋士の水準に達した。囲碁界でのAlphaGoの影響はこれからも続くだろう。

(記事:楊爍 写真提供:sina)

棋声人語 [ 2017年4月19日 ]

2017年金立杯中国囲碁甲級ドラフト式

 中国囲碁甲級リーグは1999年(平成11年)創立されて以来、チーム数を10から12に増やす、1リーグ方式を2リーグ方式に変更する、外国から棋士を招聘するなど、いろいろな施策が行われている。だが、ここ十年では甲級の運営方式がほとんど変わらない。各参戦チームには政府所属の棋院チームもあるし、自分たちで損益の責任を負うクラブチームもある。また、棋士の移籍という制度が市場メカニズムにないため、本物のリーグシステムと言えない状況だった。

 こういう環境の中、2017年中国囲碁甲級リーグでは三つの重大な調整が行われた。1つ目は、12チームを14チームに増やす。2つ目は、各チームに1名か2名の棋士を「ドラフト市場」に出してもらって、ほかのチームに選手を選ばせる。3つ目は、外国からの棋士を基本棋士枠(6名)の対象外とし、各チームが外国人を誘致することを奨励するというものである。ただ、同時に外国人の助っ人選手の出場を総ラウンド(26ラウンド)の半分以下に制限するという施策も同時に実施されることになった。

 3月31日、ドラフト会議が中国棋院で開かれた。元々江蘇チームに所属している劉曦五段(29歳)が1番目に河南チーム(2016年囲碁乙級リーグ戦の第三位、乙級では一番下位で甲級に昇格した)に指名され、今年の「選ばれし一位」となった。続いて、北京チームの蔡競六段(23歳)が広東チームに指名され、次に上海チームが3番目に指名し、無事に自チームからドラフトに出した胡耀宇八段(35歳)を取り戻した。ちなみに他のチームがドラフトに出した棋士の多くは近年入段したばかりの若い棋士であった。

 ドラフト制は、行政指令をもって強引に甲級各チームの棋士を移動させる。ある意味では甲級の活力を促進しているが、各チームの利益を均衡させる必要があるため「ドラフト市場」に出された棋士は明らかに主力選手レベルではないのが現状だ。それに、ほかのチームに指名された棋士の個人利益も無視されている。この制度は、やはりこれから改善し続けいかなければならないだろう。

2017年囲碁甲級リーグ各チーム名簿:

チーム名メンバー外国人選手スカウトしたメンバーコーチ
杭州
(蘇泊爾チーム)
李欽誠九段(18歳)
連笑八段(23歳)
邬光亜六段(26歳)
謝科三段(17歳)
朴廷桓九段(24歳)陳玉侬四段(18歳)汪涛六段(27歳)
厦門
(元云南チーム)
柯潔九段(19歳)
牛雨田七段(32歳)
范胤六段(19歳)
蒋其潤四段(16歳)
姜東潤九段(28歳)陳豪鑫初段(13歳)聶衛平九段(63歳)
趙哲倫四段(32歳)
北京
(中信チーム)
陳耀燁九段(27歳)
柁嘉熹九段(25歳)
鐘文靖六段(26歳)
韓一洲四段(20歳)
申旻埈六段(18歳)伊凌涛三段(16歳)譚炎午七段(65歳)
孔傑九段(34歳)
重慶 古力九段(34歳)
檀啸七段(24歳)
李軒豪六段(22歳)
楊鼎新五段(18歳)
一力遼七段(19歳)韓晗五段(27歳)古力九段(兼)
陳為三段(41歳)
北京
(民生チーム)
時越九段(25歳)
陶欣然六段(22歳)
彭立尭五段(25歳)
許嘉陽五段(17歳)
金志錫九段(28歳)沈沛然二段(15歳)王汝南八段(70歳)
李雲生三段(41歳)
江西
(元武漢チーム)
辜梓豪五段(19歳)
孫騰宇七段(24歳)
胡躍峰五段(25歳)
楊楷文四段(20歳)
李東勲八段(19歳)丁世雄三段(18歳)李康六段(30歳)
成都 党毅飛九段(22歳)
古霊益六段(25歳)
廖元赫五段(16歳)
馬逸超四段(19歳)
崔哲瀚九段(32歳)彭荃七段(31歳)宋雪林九段(55歳)
李亮五段(45歳)
珠海唐韋星九段(23歳)
孟泰齢六段(30歳)
謝爾豪四段(18歳)
王沢錦五段(18歳)
- 陳正勲三段(18歳)
張英挺六段(39歳)
李亜春七段(55歳)
江蘇 芈昱廷九段(21歳)
童夢成六段(21歳)
黄雲嵩六段(20歳)
趙晨宇五段(17歳)
- 陳翰祺初段(16歳)
屠暁宇初段(13歳)
丁波五段(46歳)
山東 周睿羊九段(25歳)
江維傑九段(24歳)
范廷鈺九段(20歳)
陳梓健三段(17歳)
- 黄昕四段(20歳)
侯靖哲初段(16歳)
曹大元九段(55歳)
杭州
(云林チーム)
謝赫九段(32歳)
丁浩四段(17歳)
夏晨琨五段(22歳)
李銘五段(24歳)
申真谞七段(17歳)李翔宇四段(19歳)郭聞潮五段(27歳)
上海 常昊九段(40歳)
李喆六段(28歳)
范蕴若五段(21歳)
李維清四段(17歳)
安成浚七段(25歳)胡耀宇八段(35歳)劉世振七段(39歳)
広東王昊洋六段(27歳)
安冬旭五段(23歳)
戎毅五段(22歳)
王碩三段(23歳)
朴永訓九段(32歳)蔡競六段(22歳)呉肇毅九段(51歳)
河南劉星七段(32歳)
張立六段(29歳)
廖行文六段(22歳)
陳賢五段(20歳)
李世乭九段(34歳) 劉曦五段(29歳) 袁曦四段(50歳)
常昊九段、古力九段がチーム代表としてスカウトする。(囲碁天地提供)

(記事: 楊爍)

棋声人語 [ 2017年4月7日 ]

第3回Mlily夢百合杯総合予選戦

 2012年(平成24年)から、中国では二年に一回行われる本戦64人が参加する世界囲碁オープン戦が次々と創立された。貴州、江蘇、河北三省の企業の賛助により、百霊杯、夢百合杯、新奥杯などが続々と出てきて、今や中国囲碁界で最重要の棋戦となっている。

 この三棋戦は全て総合予選、64強が参加する本戦、準決勝三番勝負及び決勝五番勝負という形式で行われている。ただし、それぞれには微妙な違いがあり、一番違いがはっきりしているのはMlily夢百合杯である。決勝戦の五番勝負は一週間以内で終わらせ、また予選はアマチュア、欧州、北米の棋士が単独の別グループに分けられ実施されている。そして、今年の第3回では破天荒にもワイルドカード枠を囲碁AIに与えられた。そのことで、色々な議論が巻き起こった。

 もし囲碁AIが人間の棋士の試合に参加したら、人間の棋士ないし試合そのものに衝撃を与えることになるのか。これは今のホットな話題である。だが、囲碁AIがもたらした影響はこれだけでない。囲碁AIによる囲碁の技術革新や棋士の心理に与える影響によってトップ棋士たちが無敵でなくなり、若手の無名棋士たちも、だんだん力をつけるようになっている。3月26日から30日まで北京の中国棋院で行われた第3回夢百合杯総合予選の結果が、人々にそのような印象を強く残したのであった。

 44席の本戦出場枠は中韓勢が占めることとなった。それぞれ中国30人、韓国14人が本戦に入った。そんな中、古力九段(34歳)、謝赫九段(32歳)、時越九段(26歳)、范廷鈺九段(20歳)、元晟溱九段(31歳)、金志錫九段(27歳)、李東勲八段(19歳)など、中韓のトップ棋士たちが次々と予選敗退した。そして10代、特に近年入段したばかりの棋士がたくさん本戦に入った。6月19日に開催される予定の第3回夢百合杯本戦は、AIの参加と新人の台頭で、より熱戦が期待される。

大会会場
夢百合製品のイメージキャラクターである黑嘉嘉七段(22歳)は予選突破できなかった。

去年新奥杯で元老棋士の魅力を見せた方天豊八段(54歳、左)だが 韓国の趙漢乗九段(34歳)に惜敗。
於之瑩五段(19歳)など三名の女流棋士が男子グループに参加したが、一人も勝てなかった。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年3月31日 ]

第8回四維数創杯 中国囲碁竜星戦本戦

試合は中国天元囲碁チャンネルスタジオで撮影された。後ほど日本語に訳され日本の囲碁将棋チャンネルで放送される予定。

 囲碁の棋戦で、一番多く採用されているルールはトーナメントである。16人あるいは32人の選手により本戦4回戦から5回戦で、一人の挑戦者が決められる「実力主義」の方式である。だが、竜星戦は例外である。日本の竜星戦において、パラマストーナメント方式で優勝者と優勝者を除く最多勝ち抜き者が進出するという制度が採用されてから、二十年も経っている。中国の竜星戦も第8回からその方式にルール変更となった。このルールを棋士たちや愛好者も新鮮だと感じているらしい。

 具体的に説明すると、22名の本戦に参加する棋士が二グループに分けられ、そして各グループの11人が段位、ランキング点数により、上位から順番に並べられる。棋士は下位から上位に挑戦していく。勝ったら次の上位者との対局となるが、負けたらアウトだ。各グループの最多勝ち抜き者と最後の一勝をした棋士が四強に入る。22名の棋士の内訳は、40代の棋士2人、30代の棋士4人、20代の棋士8人、10代の棋士4人、そして女流棋士2人と前回の優勝者、準優勝者からなっている。

 Aグループでは、劉星七段が若い世代の潮流に立ち向かい、三連勝を果たした。だがその後、李欽誠九段(18歳)の三連勝したため、規定により李九段がAグループの「最多勝ち抜き者」になった。その後、李欽誠は陳耀燁九段(27歳)に敗れ、陳九段は柯潔九段に敗北した。一方、Bグループでは驚きの一幕が上演された。楊鼎新四段(18歳)が二連勝した後、辜梓豪五段(18歳)が8名の強者を相手に勝ち続け、最後まで勝ち抜いた。最終的に4名の10代棋士が四強の枠を全部手に入れることとなった。

第8回四維数創杯 中国囲碁竜星戦 本戦対戦表

A組B組
棋士名勝数棋士名勝数
柯 潔九段1 周睿羊九段 0
陳耀華九段 1 時 越九段 0
柁嘉熹九段 0 芈昱廷九段 0
古 力九段 0 王 檄九段 0
李欽誠九段 3 謝 赫九段 0
周鶴洋九段 0 常 昊九段 0
連 笑七段 0 孫騰宇七段 0
劉 星七段 3 辜梓豪五段 8
童梦成五段 1 鐘文靖五段 0
周賀璽五段 1 李 赫五段 0
於之莹五段 0 楊鼎新四段 2
Bグループでは、辜梓豪が楊鼎新を倒して、勢いよく勝ち進み、最後の一人の周睿羊と対戦した。黒番の周睿羊九段だが、黒49のトビが少々軽率な手で、白50のノゾキから白52と調子で攻められ、白は窮地に陥った。その後、黒59で左辺の黒は生きなければならず、次の白60のツケキリで白優勢がはっきりした。

(記事/写真:楊爍)

棋声人語 [ 2017年3月27日 ]

第16回四川航空杯中国囲碁西南王戦

決勝戦会場、左は檀七段、右は楊五段 (写真提供:sina)

 日本では、日本棋院中部総本部の棋士だけ出場する「王冠戦」や関西棋院の棋士だけが参加できる「関西棋院第一位決定戦」があるが、中国ではこのような地域的な試合は一つしかない。それは四川、貴州、雲南、重慶の四省市チーム選手が出場できる「西南王戦」である。この棋戦は2002年(平成14年)に創立され、2017年に16年目を迎え、四川航空会社の賛助を得た。そのため、棋士が飛行機で四川省成都市に向かう時、空港のアナウンスでわざわざ「西南王戦に出場する棋士のご利用をありがとうございます。」と放送された。

 地域棋戦とはいえ、西南の省市は囲碁チームも多く、トップ棋士もたくさん集まっている。それに加えて、今回は常昊九段(40歳)、時越九段(26歳)、芈昱廷九段(21歳)の三人の世界チャンピオンを特別に招いたので、今回の西南王戦は見どころが満載である。試合は二日間で4回戦のトーナメント方式で行われる。また1手30秒の早碁ルールを採用しているから、番狂わせが起こる可能性も高いといえよう。

 1回戦ではやはりこの間世界チャンピオンになったばかりのスター棋士の唐韋星九段(24歳)が一線から離れている先輩の彭荃七段(33歳)に敗れ、党毅飛九段(22歳)が前回優勝者の楊鼎新五段(18歳)に敗北した。「川江棋童」と呼ばれた古力九段(34歳)も昔の勢いを失い、李翔宇四段(20歳)に倒された。それと比べると、ベテランの常昊九段(40歳)が連勝し四強に入った。準決勝戦では、優勝候補とされる柯潔九段(19歳)が檀啸七段(24歳)に敗れた。
 決勝戦では、また若手に勝利の女神がほほ笑んだ。楊鼎新が檀啸に勝ち、西南王二連覇を果たした。

準決勝で檀啸七段が黒で柯潔九段と対戦。右上で黒17オサエ、白18キリ、ともに効率最大化を求める手段だ。黒35まで眼を作れば、非常に複雑な変化になっている。黒は部分的に両コウで白を取ることができる。中国のプロ棋士たちは何度もネット対局でこのような変化を使って囲碁AIに罠をかけたのだが、今回罠にかかったのは柯九段のようだ。後の進行で抵抗しても全部取られてしまい、局面を逆転しようがなかった。

(記事:楊爍)

棋声人語 [ 2017年3月21日 ]

第29回嫘祖杯名人戦

対局現場(写真提供:sina)

 中国四川省綿陽市塩亭県は「嫘祖の故郷」とされている。塩亭は古代の軒轅黄帝の妃である嫘祖が生まれた場所と言われ、毎年の春には、ここで盛大な先祖祭が行われる。  2017年の3月の初め、「嫘祖古里先祖祭」には初めて囲碁の要素が入ってきた。『人民日報』が主催する中国囲碁名人戦に、今回から塩亭県政府が賛助するようになった。そして、挑戦手合三番勝負が先祖祭の期間に塩亭県で行われた。嫘祖は養蚕の発明者で、それから中国でシルクが使われるようになったと言われている。それに、囲碁も古代の王尧帝が発明したと言われているので、これらの伝説は今回の名人戦に文化的な話題をももたらしてくれた。

 本戦五回戦を経て、三か月前に挑戦権を勝ち取ったのは周睿羊九段(25歳)、その時彼は囲碁AIの打ち方を模倣し、いい成績を収めていた。だが、周九段の連勝はそれからすぐ止められてしまった。天元戦挑戦者決定戦では連笑八段(22歳)に負け、LG杯決勝戦では党毅飛九段(22歳)にも負けてしまった。今回の塩亭では、前回の名人戦優勝者である連笑八段とまた対戦することになり、周九段が感じているストレスは相当だっただろう。

 三番勝負の第一局は、連名人がまず一勝をあげた。そして第二局だが、その対局が行われた日(3月8日)はちょうど周挑戦者の25歳の誕生日だった。彼は誕生日に勝ち、勝負の決着を決勝局まで伸ばした。しかし、3月9日の第三局では、周挑戦者は簡単に収束させれば勝利を収めるのに、狐につかまれたように相手の大石と攻めあって、コウ争い持ち込まれてしまった。コウ自体には勝ったが、結局勝負には負けた。これで、連笑八段はタイトルを守って、名人二連覇を達成した。

第3局で周九段が白番。白は上辺の白には1眼があるので、黒との戦いが有利だと判断していたが、実はそれは重大な誤算だった。コウになり、黒219に打たれた時、白220と一手詰めて本コウにならなければならなかった。結局、後に黒Aのサガリに対して、コウを解消するしかなかったので、続いて黒Bとコスんで渡られ、右辺の大石が憤死することとなった。

(記事:楊爍)

棋声人語 [ 2017年3月13日 ]

2016-2017都市囲碁リーグ戦

大会現場

 近年、中国経済の発展スピードがだんだん緩やかになっている。中国政府は新しい経済の成長点を体育・文化産業に移そうとしている。囲碁においては、2015年に創立された都市囲碁リーグ戦がこのような政策の産物である。この棋戦を創設したのは広西華藍グループの理事長雷翔(59歳)である。彼は囲碁の大ファンで、長い間中国囲碁甲級リーグの構成チームを賛助したこともある。

 都市囲碁リーグ戦は中国囲碁協会ではなく、新しくできた囲碁都市連盟により行われ、各参戦チームが連盟に出資をしている。試合はプロとアマの連合チームで、パソコンで対戦する。各局は序盤(1-60手)、中盤(61-141手)、ヨセ(142-終了まで)の三節に分れ、各節に必ず棋士一人が出場する。そして、一人で何十手を打つというリレー式で試合を進める。また各チームのコーチにはタイムやチェンジの権利がある。各節の間の休憩時間にはチアガールのショーもある。これは囲碁の試合として新しい形式である。

 都市囲碁リーグ戦やその試合規則に関しての論議はいつまでも絶えず、将来どのようになっていくのだろうかと色々と推測されている。2016年に行われた第2回は2017年の2月25日、26日に中国の上海で閉幕し、海外のソウルチームが、都市囲碁リーグ戦の発祥地――広西省の北海チームに勝って優勝した。ソウルチームは申真谞六段(17歳)、申旻埈五段(18歳)などの韓国トップ若手棋士で組まれた。ちなみに北海チームのコーチは中国の元第一人者の時越九段(25歳)であった。そしてこの二日間、主催者は全国各地の囲碁愛好者たちを招いて、チームを組ませ「百団大戦」が行われた。それには千人以上が参加したと言われる。

 表彰式では国家体育総局の新副局長で囲碁担当の趙勇(54歳)が都市囲碁リーグ戦を褒め称え、そして中国囲碁協会は改革をおこしなければならない、行政から離れて、マーケットに入るべきだと宣言し、それに都市囲碁リーグ戦の関係者たちは奮い立った。

(記事:楊爍 写真提供:囲碁天地)

棋声人語 [ 2017年3月2日 ]

第18回農心杯世界囲碁最強戦

優勝した中国チーム。左から連笑、柁嘉熹、范蘊若、柯潔

 第18回農心杯世界囲碁最強戦は例年とは異なった試合展開であった。例年なら、中日韓三国の成績がいつも均衡状態で、とくに中国と韓国の間では、最後にならないと、勝負の行方がなかなか決まらないことが多い。

 だが、今期は中国の先鋒である范廷鈺九段(20歳)が出場した時から、例年と違った展開を見せた。彼は日本チームの先鋒である一力遼七段(19歳)を負かしたあと、六名の日韓トップ棋士に勝ち続けた。勝った相手の中には農心杯で連勝をしたことのある韓国の李東勲八段(18歳)、姜東潤九段(27歳)、金志錫九段(27歳)だけでなく、日本の強豪である張栩九段(37歳)、河野臨九段(36歳)、村川大介八段(26歳)も含まれており、農心杯史上最多連勝記録を塗り換えた。

 2016年11月韓国の釜山で行われた第9局では、韓国チームの主将朴廷桓九段(24歳)が范廷鈺九段の八連勝を全力で阻止した。韓国チームを一勝も取れず三国の中で最下位になるという最悪な局面から救い出した。そして2017年2月21日、第10局が中国の上海で開かれた。朴廷桓は、続いて日本チームの主将井山裕太九段(27歳)を破った。しかし、朴廷桓の前には、中国の范蘊若五段(21歳)、連笑七段(22歳)、柁嘉熹九段(24歳)、柯潔九段(19歳)の四名の強敵が控えている。試合は范廷鈺九段の七連勝のあと、勝負の行方はほぼ決まっているようであった。

 2月22日、長くて平凡なヨセ戦の後、朴廷桓九段はやはり大きなプレッシャーに負け、後半では最適な手順を打ち出すことができず一目半の差で敗北してしまった。今回、中国チームは農心杯四連覇を果たしただけでなく、出場した棋士が二人だけで、そして一人しか負けていないという素晴らしい実績を残した。

朴廷桓九段が黒で范蘊若五段と対戦。ヨセの段階に入ると、白は左上で手抜きしかなかったが、黒177、179の次に黒181と抜きしたのが驚きであった。もし黒がAとハネて、白Bのアタリ、という手順を利かしてから、また181くらいに戻したら、黒が有望となる。実戦白184と一手で欠陥を守られて、勝運が朴の指先から逃げてしまった。

(記事:楊爍 写真提供:sina)



第14回倡棋杯予選戦

 倡棋杯は上海応昌期囲碁教育基金会が主催する伝統的棋戦である。本戦には計30人が出場し、シード選手と予選から本戦進出の選手以外、特別招待の中華台北の棋士一人と女流棋士一人がその中に含まれる。だが、この特別枠以外で倡棋杯が始まって以来、女流棋士が本戦に入ったことはなく、最終予選の段階で1局勝ったことさえなかった。

 2017年の第14回倡棋杯でその状況は変わった。今年、直接特別枠で本戦に入った女流棋士は李赫五段(25歳)である。女子ランキング一位の於之瑩五段(19歳)は予選から冦政岩二段(18歳)、馬光子三段(20歳)、趙中暄二段(17歳)の三名の年が近い男子棋士に勝ち、最終予選に入った。そして、最終予選一回戦で元倡棋杯準優勝者である劉星七段(32歳)に勝利した。於之瑩五段が今回の棋戦で一歩一歩本戦に向けて前進する様子は愛好者たちの話題になっていた。

 2月22日に終わった最終予選決勝戦では、於之瑩五段は囲碁甲級リーグのメインメンバーの許嘉陽五段(17歳)に負け、残念ながら前へは進めなかった。だが、彼女は今回の棋戦で女流棋士の新記録を作り出した。昨年2016年の倡棋杯では特別枠で本戦に入った於之瑩だが、その時は元世界チャンピオン江維傑九段(25歳)に勝った。今年の李赫五段はどんな活躍を見せてくれるのか。第14回倡棋杯本戦は4月19日に行われる予定である。

対局会場
於之瑩五段(右)が劉星七段に勝利した

於之瑩が白番で劉星と対戦した。 白が穏やかな打ち方で、形勢はまだいい勝負だが、於之瑩が自信満々でしっかり局面を把握していた。白152のツケに対して、黒が普通に応じれば僅差で負けること避けられないので、153と割り込んで頑張ろうとしたが、白154から158まで、白の突入を阻止できなかったので、黒は投了した。

(記事:楊爍 写真提供:sina)

棋声人語 [ 2017年2月14日 ]

新世界チャンピオン 党毅飛九段

党毅飛九段 (写真提供:sina)

 2012年(平成24年)、当時の世界棋界はまだ古力九段(34歳)、李世乭九段(33歳)の二人が君臨する時代であった。だが、第4回BCカード杯世界囲碁オープン戦で、1994年生まれ、当時18歳だったある少年が先輩たちを負かした。彼は李世乭九段、朴永訓九段(31歳)などの名将に勝ち続け、決勝戦まで進出し、そこから中国で「10代」、「20代」棋士が棋界の中心となる時代が幕を開けた。

 その少年は中国山西省出身、今四川チームに在籍している党毅飛である。だが、運命があっという間に変わってしまった。第4回BCカード杯決勝戦で韓国の白洪淅九段(30歳)に負けて以来、党毅飛は四年にもわたる低迷期に陥った。中国の同期ないし後輩の棋士たちが次々と優勝していく中、党毅飛は世界棋戦の準決勝戦に入ることさえなかった。

 2016年(平成28年)、党毅飛は誰にも期待されていない状態であったが、第21回LG杯で連戦連勝、何百名のプロ棋士も参加した国際予選を突破し、本戦では中華台北、日本、韓国の新鋭たち、林君諺七段(19歳)、一力遼七段(19歳)、申真谞六段(17歳)に連勝し、中国のベテラン棋士の陳耀燁九段(27歳)にも勝ち、再び世界棋戦の決勝に進出した。そして中国の昇段ルールで、二回世界棋戦の決勝戦に入ったことにより四段から九段に昇段した。

 2月6日、8日、決勝の三番勝負が韓国の華城市で行われた。今回も期待されていなかったが、党毅飛九段は逆境の中で周睿羊九段(25歳)に二局勝って、五年ぶりに悲願を達成し、堂々たる世界チャンピオンとなった。

第21回LG杯決勝戦の二局目、黒の周睿羊九段はもう優勢であったので、白の左上の石を無理にコウにしなくても良い。他のところで利益をとれば勝ちになる状況だった。だが、コウを争っている時に、黒153のアタリが大きなミスだった。(Aのキリでコウを続けるべきだった)。 実戦では、白Bのところを抜かれ、黒上辺の地が大きく損じし、コウ争いも勝てなかった。結局、党毅飛九段に一目半で逆転された。

(記事:楊爍 写真提供:sina)

棋声人語 [ 2017年2月10日 ]

第5回CCTV賀歳杯日中韓新春争覇戦

対局現場

 年に一度の春節休みに、外で一年も働いていた人々も家に戻り、一家団欒を楽しむ。旧正月二日から四日の午後までの間、テレビをつけて、トップ棋士の戦いを楽しみながら、囲碁を教えてくれた父親と昔話でもする。なんという温かい時間だろう。2017年1月29日から31日の中国では、このような光景がいろんなところで見られる。

 「賀歳杯」は中国中央テレビ(CCTV)スポーツチャンネルが2013年に創設した棋戦である。初年度は中国囲碁甲級リーグのMVP棋士と最優秀主将を招いて、オープン戦を開催した。2014年からは中日韓から一人ずつ招待し、三日間にわたる試合を行うようになっている。優勝賞金は80万元(約1300万円)。今の棋界では間違いなく相当な額と言えるだろう。

 今年、日本囲碁界の王者である井山裕太九段(27歳)がやっとスケジュールの苦境から脱出し、初めて賀歳杯に参加した。中国の柯潔九段(19歳)と韓国の朴廷桓九段(24歳)もそれぞれの国のランキング1位である。2017年は旧暦の酉年なので、主催側が抽選を「金卵を叩く」という趣向で行った。棋士たちが槌で叩くと、金卵がパッと割れた。

 1局目では、井山裕太が中国のファンたちに日本一の実力を見せ、柯潔を破った。だが、ホームグラウンドの柯潔は、次に朴廷桓に逆転勝ちし、決勝戦では1局目の雪辱を果たし井山裕太に勝利、2年連続で優勝した。2014年以来、賀歳杯の優勝者は時越九段(26歳)、柁嘉熹九段(26歳)、柯潔九段と、全員が中国棋士であり、春節の間、そのことでも中国の囲碁愛好者たちは喜んでいた。

決勝戦では、井山裕太九段が黒番で、柯潔九段と対戦。黒59のケイマは一見白の大石を封鎖しているように見えるが、白60から62の両ツケの手筋が発動し、白66まで逆に黒を切断した。混乱している中でチャンスを見つけだすのが柯潔九段の強さだ。

(記事:楊爍 写真提供:sina)

棋声人語 [ 2017年1月26日 ]

第31期同里杯天元戦

挑戦者決定戦の対局風景

 中国の最も歴史の長いタイトル戦である天元戦は、2016年1月13日から22日にかけて、北京の中国棋院で第31回の本戦が行われた。中国の旧暦新年を迎える前に開催される最後の試合として、毎年の恒例になっている。

 ただ以前と比べ今年違ったのは、僅かに残された二つの新聞棋戦――名人戦と天元戦が相次いでこの時期に行われたことだ。名人戦で挑戦権を奪い取ったのは周睿羊九段(25歳)である。彼は囲碁の人工知能Master(即ちAlphaGo)が60勝0敗で人間のトップ棋士を勝った後、人間棋士の中で碁の打ち方が一番深くその影響を受けた人とされていて、「人間AlphaGo」、「アルファ羊」というあだ名までつけられている。名人戦で挑戦権を手に入れた周睿羊は、天元戦においても党毅飛九段(22歳)、安冬旭六段(24歳)、毛睿龍五段(26歳)、古力九段(33歳)を続々と倒し、挑戦者決定戦に進出した。

 面白いことに、周睿羊が天元戦本戦の最後の一局で対戦したのは、ちょうど名人戦で挑戦する連笑名人(23歳)であった。連笑は、2016年に公布された新しい中国昇段規則に恵まれて、1月16日に行われた天元戦十六強戦で範胤五段(19歳)に勝ち、中国囲碁界では11年ぶりの新八段になった。さて挑戦者決定戦だが、周睿羊は再び「Master序盤」を使ったが、局部で連笑に待ち伏せ攻撃されたため、2016年11月21日から続いていた11連勝は終わることとなった。

 連笑八段は今年の4月に江蘇省呉江市同里鎮にて、陳耀燁天元(27歳)に挑戦する予定。ちなみに陳天元は現在八連覇を成し遂げている。

挑戦者決定戦は周睿羊九段が黒番。黒5にカカった後、黒7と二間にヒラくのは「Master」流である。連笑八段は白14、16で激戦を誘って、白22のサガリが強い一手であった。その後難しい戦いを経て、右下黒の3子がなんと全て殺されてしまい、早々の損で黒の敗北となった。

(記事:楊爍 写真提供:sina)

棋声人語 [ 2017年1月18日 ]

第29期嫘祖杯名人戦

挑戦者決定戦は人民日報インタネット部本部で行われた

 『人民日報』が主催する第29期中国囲碁名人戦が、2016年12月24日に北京にて開幕した。32名の棋士が5回戦を戦い、前回の優勝者連笑七段(22歳)への挑戦者が選ばれる。そして、今回の名人戦決勝手合は三番勝負で行われる。

 5回戦によるトーナメント本戦は年を越して行われた。2016年12月24日、26日に第1回戦と第2回戦、2017年1月6日、10日、12日は第3~5回戦が行われた。ちょうど冬で流行病が多発する時期ということもあり、范廷鈺九段(20歳)、柯潔九段(19歳)が水疱瘡と腸閉塞にかかり、それぞれ第1回戦、第3回戦で不戦敗による敗退となった。

 そして名人戦が行われている間、世界囲碁界で大きな出来事が起こった。グーグル傘下のDeepMind社によって開発された囲碁の人工知能「AlphaGo」の改良版が「Master」というハンドルネームを使い、中日韓三国のトップ棋士と対戦し、60戦全勝を収めた。「Master」の布石の打ち方は人とずいぶん違っているが、成績があまりにも優秀なので、人々もだんだんその打ち方を学び始め、また、プロの中でも流行布石を大きく変えることになった。1月10日、12日の準決勝と挑戦者決定戦の対局は明らかに「Master」に影響されていた。

 最後に挑戦権を手にしたのは周睿羊九段で、2017年3月の始めに賛助してくれる四川省塩亭県で連笑七段との挑戦手合をたたかう行う予定である。

周九段が黒で芈九段と対戦、黒5、白6の大ゲイマシマリ、白8の二間ビラキ、白12のカタツキ、これらは標準的なMasterの打ち方だった。

(記事:楊爍 写真提供:sina)



2016利民杯世界星鋭最強戦総決勝戦

芈九段がトロフィーを手にした。

 中国棋院杭州分院が主催する利民杯世界星鋭最強戦は20歳以下の棋士が参戦する舞台である。だが、中国では20歳以下の棋士の実力が猛スピードで向上しており、芈昱廷九段(20歳)、范廷鈺九段(20歳)、柯潔九段(19歳)は皆世界チャンピオンである。それ故に、この棋戦はただの新鋭戦という意味だけでなくなっている。特に彼らが出場する本戦は、世界最高レベルの棋士が集まっているようにも見える。

 芈九段、范九段、柯九段が出場するゆえ、本戦の日時がなかなか決まらない。いろいろ調整した結果、2016年12月31日から2017年1月4日にかけて、行われることになり、「年越し戦」になった。本戦に参加する32名の棋士は、中国18人、韓国8人、日本3人、中華台北1人、ヨーロッパ1人、北米1人である。半分は各国・地域の指定シード選手で、半分は2回行われた選抜戦で勝ち抜いた選手である。

 いくら世界チャンピオンとはいえ、新鋭戦では相手を震え上がらせるという効果はなかったようだった。「生まれたばかりの子牛は虎をも恐れない」というが、范廷鈺九段、柯潔九段が第2回戦で卞相壹六段(18歳)、申旻埈五段(17歳)に敗れた。ちなみに、前回、前々回の星鋭戦優勝者も一番有名だとはいえない童夢成六段(20歳)と辜梓豪五段(18歳)だった。

 そんな中、今回は芈昱廷九段が世界チャンピオン経験者としてのプライドを守り切った。彼は難儀しながらも中国の廖元赫五段(16歳)、日本の芝野虎丸三段(17歳)、韓国の偰玹准三段(17歳)、中国の黄雲嵩六段(19歳)を負かし、決勝戦では四つ年下の韓国の申真諝六段(16歳)に勝利を収めた。2017年1月8日は芈昱廷九段の誕生日で、彼は1つをとる寸前に初めて星鋭戦のチャンピオントロフィーを手にした。

芈昱廷九段は今回の試合を振り返って、まず第2回戦の芝野虎丸三段との対局に言及した。黒137下ツケの時に、芝野三段がAのところに打っていたら、黒の大石が生きられないと言った。だが、実戦では白138が守っただけ、黒が危うく逃げた。運がいい一局としか言えない。

(記事/撮影:楊爍)

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