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大会・イベント

バックナンバー 2015

ヨーロッパの囲碁ニュース・棋戦情報のバックナンバーをご覧になれます。

ヨーロッパからの囲碁ニュース・棋戦情報を皆様にお伝えします。

囲碁ニュース [ 2015年12月16日 ]

ベルリンの囲碁大会

欧州で、もっとも囲碁クラブが数多く存在する都市はどこか?というと、恐らくはドイツの首都ベルリンではないかと思われる。ドイツ囲碁連盟のサイト(http://www.dgob.de/spielen/index.htm)によれば、ベルリンには少なくとも9のクラブが存在し、周辺のポツダムなどの市を入れると、この数はさらに多くなる。また、欧州囲碁データベース(http://www.europeangodatabase.eu/EGD/)を見ると、ベルリンで2015年に開催された大会の数は大小あわせて実に10強に上る。また、このうち、40人以上を集めた比較的大規模な大会が4つと、さすがドイツの組織力と思わされる数字である。このうち、4月のグランドスラム大会については既にレポートしたが、11月にも2つの大きな大会が開催された。

第18回「Go to Innovation」大会

 11月13-15日にかけて、「Go to Innovation」大会が40人を集めて開催された。この大会は、「Hahnシステム」を採用していることで知られる。これは、韓国明知大学のHahn Sangdae教授が賭け碁に想を得て考案したシステムで、一局ごとに、対局の結果だけでなく、その目数を基準として、勝者と敗者が100ポイントを二人で分け合う、というもの。すなわち、結果が中押し勝ち、もしくは40目差以上の場合は、勝者が100ポイントを得る一方、敗者はポイントを得ることができない。しかし、碁がより細かく、例えば半目から10目差である場合、勝者は60ポイントを得るにとどまるのに対し、敗者は40ポイントを得ることができ、10目半から20目差の場合、勝者70、敗者30ポイントを得る、といった具合である。最終的には勝数、負数よりも、得たポイント数で勝者を決めることになる。「Go to Innovation」大会では、ハンディキャップもこのポイント差で決定され、上位者にかなり厳しいハンディキャップが課されることもしばしばである。また、時間についてもユニークなシステムを採用しているようである。

 賞金は1位1200ユーロと比較的高く、今年は、リ・ティン1p(関西棋院)、パボル・リジー1p(スロバキア)、イリヤ・シクシン1p(ロシア)と3人のプロが参加した。8回戦の結果は、シクシン1pが優勝、リジー1pが2位を占めた。3位には韓国出身でスペインにて囲碁指導を行っているOh Lluis6dが入賞した。同大会の写真は欧州囲碁連盟のサイト(http://www.eurogofed.org/index.html?id=23)にて見ることができる。

第36回Kranich大会

 11月最後の週末には、Kranich(「鶴」の意)大会が中心部のフンボルト大学で開催された。こちらは歴史も長く、今年が第36回目。参加者が毎年100人を大きく超える、ドイツ並びに欧州でも最大級の大会で、今年も140人が参加した。優勝したのはXu Yin6dで、これにチェコのルカス・ポドペラ6d、ドイツのミヒャエル・パラント5dが続いた。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年11月9日 ]

フランス青少年合宿/クラブ選手権

10月末に、フランス青少年合宿およびクラブ選手権がランスアンベルコールにおいて開催された。今回は両者についてレポートする。

フランス青少年合宿

 フランスでは、学校休暇の時期が地域ごとに異なっていることが多い。国土は3つのゾーンに分けられており、それぞれ1週間程度バカンスの開始時期をずらすことで、スキー場などの観光地に一時期に客が集中しすぎないように配慮されている。その中で、国内全土で日程がまったく同じなのが万聖節に先立つ10月末の2週間のバカンスである。仏囲碁連盟では、この全国共通のバカンスを利用して1週間の青少年向け合宿を開催している。

風光明媚なベルコール山塊。光によってあっという間に風景が様変わりする。(写真:筆者)

 2006年からはグルノーブル近郊のベルコール山塊に位置するランスアンベルコールに場所を定め、以来今年で10年目と順調に年を重ねてきた。おかげで、毎年フランス各地から、小学生から高校生まで40人近い若者が参加する恒例行事となった。

打碁を検討する小学生、真剣そのもの。(写真:筆者)

 参加者のレベルは、初心者から段位者までと幅広く、指導する時はレベル別だが、それ以外では囲碁に関係なく皆の交流が促進されるようなプログラムが組まれている。また、毎日の様子は特設のブログ(http://cnj.jeudego.org/)に写真やイラストと共に記され、親が子供達の活動をフォローできるような配慮がなされている。

写真左:連碁大会の様子。(写真:筆者) 写真中央:キャンプは韓国アマチュア囲碁協会(KABA)の協賛を得ており、今年は韓国女流国手タイトル保持者の朴志娟4pも英語で指導を行った。(写真:Olivier Dulac) 写真右:最後の2日間は「ヒカルカップ」と名付けられた大会が開催される。中学生の部の様子。(写真:筆者)

 10年前にこのキャンプにやってきた子どもたちはもう大学を卒業するような年代になったが、彼らが未だに当時知り合った友達と連れ立って囲碁の大会にやってくるのを見かけると、指導側としては心が暖まる思いがするものだ。参加者の中から、将来の仏囲碁界を背負って立つ人材が輩出されることを楽しみにしながら子供達の成長を見守っている。

最終日の夜は、巨大なチーズを溶かすラクレットパーティー。(写真:筆者)

クラブ選手権

対局の様子。(写真:Olivier Dulac)

 さて、この青少年キャンプは10月24日の土曜日に終了したのだが、今年は特別に、それに続く週末に、同じ場所でフランスクラブ選手権が開催された。この大会は2003年に創設されたクラブ対抗戦で、仏囲碁界の父とも言える韓国出身のリム・ヨンジョン氏を讃えて「リム・カップ」の名が冠されている。1チームは4人からなり、毎年10から14前後のチームが参加、総勢では50から60人の参加者を集める比較的大規模な選手権戦となる。前年度の上位5位チームと地方予選の勝ち上がりチームが決勝ラウンドに参加して勝者を決めるというシステムである。

 欧州で国内のクラブ対抗戦を行っている国は、私の知る限りではフランス以外ではドイツがある。こちらはサッカー同様「ブンデスリーガ」と名付けられて5部までリーグ戦があり(!)毎月一度インターネット上で対局が行われ、一年かけて勝者を決定する。

 それはさておき、この大会では当然ながら強いメンバーを擁したクラブに勝者が偏る傾向があり、これまでの優勝回数を見るとトゥールーズとストラスブールが5回ずつ優勝している。しかし、昨年はグルノーブルのクラブが仏囲碁連盟で指導を行っている黄仁聖(Hwang Inseong)8dを加えて初優勝。更に、どういうわけか段位者が最近急に増加し、クラブの活性化が著しいグルノーブルは3チームを上位6位に送り込むという快挙を成し遂げた。

 グルノーブルは、第1チームに今年も4人の平均棋力が6段という強力なメンバーを揃えた。これに続くのがレンヌで、平均棋力3段。3段差では流石にグルノーブルが楽々優勝か、と思いきや、第2回戦で伏兵リヨン(平均棋力2段)と引き分けてしまった。最終的には、レンヌがトゥールーズ(平均棋力2段)と引き分けてくれたおかげで、グルノーブルとレンヌが共に3勝1分けで並び、勝ち点差でグルノーブルが何とか優勝、という結果となった。3位にはリヨン、4位にはラロシェル、5位にはグルノーブル第2チームが入賞した。全体的に粒ぞろいのチームが増えており、強いチームも安閑とはしておられない。団体戦は、こうした驚きの連続が魅力である。

優勝のグルノーブル1。(写真:Olivier Dulac)
準優勝のレンヌ。(写真:Olivier Dulac)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年11月4日 ]

モスクワ日本大使杯

 ロシア・モスクワにおいて10月24-25日の週末、第21回日本大使館杯が開催された。この大会はロシアで最も規模が大きく、歴史の長い大会である。ロシアで囲碁の知名度は高まっており、同大会にも申し込みが殺到。登録は大会の3週間前に打ち切らざるを得なくなったという。最終的には、会場のキャパシティぎりぎりの163人が参加し、これに100人を超えるゲストが加わった。

 モスクワ日本大使杯はその名の通り日本大使館が協賛している。参加費は無料で賞金はないが、すべての参加者に景品が配られ、上位者にも賞品が用意される。

会場の様子。右は二位入賞のカイミン5d。
(写真提供:ロシア囲碁連盟、Kirill Akinfeev)
 

優勝したイゴール・ネムリー6d。ディナーシュタイン、シクシナ、シクシンの3プロを輩出したカザンの出身。
(写真提供:ロシア囲碁連盟、Kirill Akinfeev)

 優勝はイゴール・ネムリー6d。2位は若手のバチェスラフ・カイミン5d、3位はベテランのルスラン・ドミトリーエフ5dだった。

 また、同大会には日本棋院の三谷哲也7p、関西棋院のリ・ティン1p、欧州プロのイリヤ・シクシン1pが訪れ、多面打ちやレクチャーを行った。

写真右:三谷哲也7p。宇宙流の極意を解説か。(写真提供:ロシア囲碁連盟、Kirill Akinfeev)
写真中央:欧州囲碁連盟副会長も務めるリ・ティン1pの多面打ち。(写真提供:ロシア囲碁連盟、Kirill Akinfeev)
写真左:シクシン1p(左)が解説を行う。(写真提供:ロシア囲碁連盟、Kirill Akinfeev)

 なお、大会が始まる2日前に、露国営メディアのロシアトゥデイINAにおいて囲碁に関する大規模な記者会見が開催され、ロシア非オリンピックスポーツ委員会のゲンナジー・アレシン会長、露スポーツ省のボリス・グリシン夏季スポーツ発展部長、日本大使館より大槻耕太郎公使参事官、露囲碁連盟のマキシム・ボルコフ会長、欧州囲碁連盟のリ・ティン副会長、露囲碁連盟のナターリャ・コバレバ5dが参加した。特に、ロシアにおいて囲碁の人気がいかに高まっているか、またどのようにして今後更なる普及を行うか、といったことについての説明が行われたほか、この機会に、非オリンピックスポーツ委員会と囲碁連盟との間に提携合意が締結された。また、記者会見では欧州最大のイベントである欧州囲碁コングレスのサンクトペテルブルクにおける今夏の開催についても説明され、すべての団体がその成功に向けて最大限の協力を惜しまないことで意見が一致した。

記者会見の様子。(写真提供:ロシア囲碁連盟、Kirill Akinfeev)

 (以上の記事は、欧州囲碁連盟サイトhttp://www.eurogofed.org/index.html?id=21に発表された記事を抄訳したものです。同大会については、ロシアNOWのページhttp://jp.rbth.com/arts/2015/10/28/534651にも紹介されています。協力を頂いたナターリャ・コバレバ5dにこの場を借りて感謝致します。 野口基樹)

囲碁ニュース [ 2015年10月13日 ]

2015年フランスペア碁選手権、フランス選手権

 フランスで行われる選手権戦(チャンピオンシップ)には、個人戦に加えて、クラブ選手権、ペア碁選手権などが存在する。秋口になるとこうした大会の最終ステージが目白押しとなるが、ここでは10月10-11日に行われたペア碁選手権と、その前の週末に開催されたフランス選手権をレポートする。

フランスペア碁選手権(10月10-11日、ストラスブール)


ストラスブールの町並み。(写真:筆者)
 ペア碁選手権は、その名の通りペア碁の国内チャンピオンを決定する大会である。仏国内に存在する唯一のペア碁大会であり、従って、必然的に国際アマチュア・ペア碁選手権のフランス代表の選考会ともなるが、チャンピオンが自動的に代表となるわけではない。この大会の成績に従って上位のペアに点数が配分され、その総合ポイントがある時点で一位だったペアが代表となり、日本行きの権利を得る、という仕組みである。国際アマチュア・ペア碁選手権に参加したペアはこのポイントをすべて消費し、次の年は0からの再出発となる。強すぎるペアが毎年日本へのチケットを獲得することを避け、皆がチャンスが得られるようにするためのシステムで、欧州では比較的多くの国で採用されているようである。


有名な大聖堂からもほど近い会場の学生寮。(写真:筆者)
 さて、フランスのペア碁選手権に特徴的なのは、個人の大会では滅多にお目にかからないベテランのプレーヤーたちが数多く参加することである。フランスではここ10年若返りが進み、その分、各地の大会やフランス選手権でこれまで碁界を支えてきたベテラン強豪を見かける機会が極めて少なくなった。しかし、ペア碁の場合、「勝つと嬉しさ二倍、負けても悔しさ半分」というわけで比較的気楽に参加できるし、上手く行けば世界大会にも行けるかもしれないという訳で、懐かしい顔が多く集まるのだと思う。そうしたこともあって、選手権とはいってもそれほどピリピリした雰囲気もなく、華やかで和気藹々とした大会になることが多い。

 今年の大会は東部のストラスブールで開催され、14ペアが参加した。

大会中は皆、笑いが絶えない。(写真:筆者)

大会の夜のパーティーにて。ミレナ・ボクレ3dを挟んで、
マリークレール・シェーヌ1d(右)と娘さんのジュリー・アルティニー4k。
三人とも、ペア碁ではフランス選手権優勝経験がある。(写真:筆者)

 四回戦の末に優勝したのは、地元ストラスブールの出身で、昨年の国際アマチュアペア碁選手権でフランス代表として参加したニョシ3d★とアントワーヌ・フネック5dのペア。さすがに気の合ったところを見せ、強敵を倒して3年連続の栄冠に輝いた。

ニョシ3d★(彼女は本当はカオ・ニョクトランという名前なのだが、このあだ名があまりにも定着しているため、
誰も本名を知らない)とフネック5dが、べレビー1級・クレルグ2d(右)のペアと対局。
べレビー・クレルグ組はマルセイユ出身で、2013年のフランス代表。(写真:筆者)

 なお、2015年の国際アマチュアペア碁選手権のフランス代表は、グルノーブル出身のドミニク・コルニュジョル2dとデニス・カラダバン4dのペアに決定している。

フランス選手権、最終ステージ(10月3-4日、リヨン)


リヨン大会の様子。全体では70人近くが参加した。(写真:筆者)
 先日、「フランス・オープン選手権」についてレポートしたが、この度フランス選手権の第4段階(最終ステージ)が開催されたので、こちらにも触れておこう。第4段階は世界アマ代表を決定する大会で、フランス国籍を保有するアマチュア8人が参加する。2010-2013年は若手ながらフランスの第一人者であるトマ・ドゥバール6dが4連覇と圧倒的な力を見せつけたが、昨年はドゥバール6dが不参加の中、バンジャマン・パパゾグルー6dが優勝を果たしている。

 今年の最終ステージは、昨年に続きリヨン大会と並行して開催された。

 今回はドゥバール6dが復帰したのに加え、数年前にフランス国籍を取得した中国出身の戴俊夫(Dai Junfu)8dが初めて参加する、ということで、ドゥバール6dがどこまで戴8dに迫ることができるか、というのが注目だった。決勝は案の定二人の対決となったが、結果は戴8dが貫禄を見せて勝利し、フランス代表の座を獲得した。

戴8d(左)とドゥバール6dの決勝。(写真:筆者)

 戴8dは1996年、1997年に世界アマ史上唯一の連覇を果たした劉鈞氏の門下。師匠に馴染みの深い大会で、どこまで上位に食い込むことができるか、期待される。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年9月28日 ]

欧州学生選手権/仏ポワティエ大会

 9月19-20日の週末に、ルーマニアのクルジュ=ナポカとフランスのポワティエで囲碁大会が開催された。さて、大雑把に言って欧州の東端と西端、2200キロ以上の距離を隔てて行われたこれら2大会であるが、一つ共通点がある。それは、どちらも地元大学に設置された「孔子学院」において開催された、という点である。御存知の通り、孔子学院は中国語・文化の普及・教育を目的とした、中国ソフトパワー強化戦略の中心にある公的機関である。その存在については色々と議論もあるところであるが、鄧小平の「黒猫白猫」の話ではないけれど、率直なところこのように囲碁の促進をしてくれるのなら欧州囲碁界としては大歓迎ではないだろうか。以下、この2大会についてレポートする。

欧州学生選手権(9月18-20日、ルーマニア・クルジュ=ナポカ)

 欧州学生選手権は2005年に創設された比較的新しい大会である。毎年国を変えて行われ、今年はルーマニアの北西部に位置する大学都市クルジュ=ナポカにおいて開催された。


会場の様子。(写真:Viktor Lin)

地元のスター、タラヌ・カタリン5pが解説役を務める。
(写真:Raluca Oana)



三回戦のマルコ4d(左)とリン6dの対局。
事実上の決勝戦となった。(写真:Raluca Oana)
 孔子学院の他、Upルーマニア(食事券)やバンカ・トランシルバニア(銀行)といったスポンサーが協賛した同大会には8カ国から14人が参加。上位陣ではマテウス・スルマ1p(ポーランド)の他、昨年の覇者ビクトール・リン6d(オーストリア)、一昨年のチャンピオンであるマルコ・ペーター4d(ハンガリー)、地元ルーマニアのミハイ=バレンティン・セルバン5dといったあたりが優勝の有力候補だったが、蓋を開けてみると番狂わせだらけの大会となった。まず、第一回戦でスルマ1pがロシアのアレクサンドル・バシュロフ5dに敗退。また、女流のジュリア・セレス1d(ハンガリー)とジョアン・ルン2d(英国)がそれぞれバシュロフ5dとセルバン5dを食うという金星を上げ大会を盛り上げた。

 こうした中でリン6dとマルコ4dの新旧チャンピオンが3回戦で激突。これを制したマルコ4dが、2年ぶりに王座に復帰した。リン6dは最終戦でスルマ1pを倒し、準優勝だった。

学生選手権と、並行して行われたオープン大会の参加者。(写真:Raluca Oana)
 最終順位は以下の通り。

1マルコ・ペーター4dハンガリー
2ビクトール・リン6dオーストリア
3マテウス・スルマ1pポーランド
4アレクサンドル・バシュロフ5dロシア
5ジュリア・セレス1dハンガリー
6ジョアン・ルン2d英国

 マルコ4d、バシュロフ5d、セレス1d、ルン2dの四人は、今年12月に東京で世界ペア碁選手権と同時開催される世界学生ペア碁選手権に出場する。また、リン6dは2016年7月にカナダ・トロントで開催される世界大学生選手権に出場する。

孔子杯(9月19-20日、フランス・ポワティエ)


トップグループの組み合わせ抽選にて。
何故か苦しそうな参加者。(写真:筆者)
 ポワティエは、パリから南西にTGVで約2時間程度の場所に位置する、ロマネスク様式の教会で有名な都市である。この地方では、これまであまり大きな大会が存在してこなかったのだが、ポワティエ大学にある孔子学院の責任者であり、フランスランキングトップの戴俊夫8dの父君である戴天華氏の尽力により、今回の大会が実現した。

 参加者数は44人で、上位では欧州チャンピオンの樊麾(ファン・フイ)2pに加え、現フランスチャンピオンのバンジャマン・パパゾグルー6d、先日のフランスオープン選手権で2位に入賞したバンジャマン・ドレアンゲナイジア6dなどが参加した。同じ週末にパリで大会があったことなども考えると、第1回大会の参加人数としては上出来であろう。

樊麾2p(右)とドレアンゲナイジア6dが
パパゾグルー6d(左)の碁を検討。(写真:筆者)

ノートパソコンでライブで棋譜入力、ヘッドホンをして集中、というのも欧州の大会では比較的よく見る風景となった。(写真:筆者)


 結果は、樊2pが予想通り全勝優勝を飾った。また、戴8dはトップグループの碁をライブで解説、参加者の喝采を受けた。


夕食は中華料理のビュッフェに舌鼓。フランスの大会では食も重要な要素の一つである。(写真:筆者)

第1回孔子杯の参加者。(写真:筆者)

 大会が永続し、ポワティエを中心とする仏西部ならびに仏囲碁界そのものの活性化に寄与することを期待したい。 (このレポート作成にあたっては、ビクトール・リン6dに大きな協力を頂きました。この場を借りて感謝します。)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年9月14日 ]

チェコ・ブルノ大会

 リベレツにおける欧州囲碁コングレスの熱気が冷めやらぬ9月4日から6日の3日間、同じくチェコのブルノにおいて大会が開催された(大会サイトはこちら:http://www.baduk.cz/?page_id=1130)。ブルノはチェコ第二の都市で、東部のモラビア地方の中心地。大会も「モラビア・オープン」と銘打たれている。ここ数年国内外から毎年100人以上を集めるチェコ有数の大会である。その賞金も1位1200ユーロなど欧州としてはかなりのものであり、参加者上位10人は参加費・宿泊費無料という待遇の良さもあって、強豪も多く参加している。今年も120人以上が参加する大規模の大会となった。

 上位陣では6段以上が14人、5段陣も含めると約20人という豪華さ、欧州プロもパボル・リジー1p(スロバキア)とマテウス・スルマ1p(ポーランド)が参戦した。実力者揃いの中、全6回戦の末に全勝者はなく5勝1敗で3人が並ぶ大混戦となった。優勝したのは、ハンガリーのチャバ・メロ6d。2回戦ではリジー1pを破り、3回戦ではアンドリー・クラベッツ6d(ウクライナ)との半目勝負を制すなど好調だった。2位には最終戦でメロ6dに土をつけた若手のルカス・ポドペラ6d、3位にはメロ6d同様日本棋院の元院生であるオンドレイ・シルト6dと地元のチェコ勢が続いた。プロはスルマ1pが7位、リジー1pが10位に終わったが、6、7陣とプロ勢の実力が伯仲しており、なかなかこの中でコンスタントに勝ち続けるのは難しいということの証明であろう。

 最終順位は以下の通り。

1チャバ・メロ6dハンガリー
2ルカス・ポドペラ6dチェコ
3オンドレイ・シルト6dチェコ
4クリスチャン・ポップ7dルーマニア
5アンドリー・クラベッツ6dウクライナ
6ビクトール・リン6dオーストリア
7マテウス・スルマ1pポーランド
8コルネル・ブルゾ6dルーマニア
9ドラゴシュ・バジェナル6dルーマニア
10パボル・リジー1pスロバキア

 来年度は誰がプロになるかを占う上でも興味深い大会であった。なお、来年の欧州プロ入団手合は3月4日から6日にかけて、ドイツの保養地バーデンバーデンにおける開催が決まった。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年9月1日 ]

フランス・オープン選手権


スペイン国境に近い大会会場からはピレネー山脈が望まれる。
(写真:筆者)
 自分の国で最強なのは誰か?というのは囲碁ファンなら皆興味のあることではないかと思う。しかし、これに答えるのは決して易しいことではない。日本を含めたアジア各国の場合、多くのスポンサーに支えられたプロ棋戦およびアマ棋戦があり、賞金額などの違いはあるのものの「ある一つの棋戦の勝者がプロもしくはアマのナンバーワンだ」と断言するのは定義としては難しいのではないだろうか。

 欧州ではどうか、というと、囲碁をめぐる状況がより厳しく、ナンバーワンを決める大会が乱立するということがない分、この点が比較的クリアである。すなわち、各国の「選手権(チャンピオンシップ)」に優勝した人がチャンピオンであり、「チャンピオンシップ」は普通の「大会(トーナメント)」とは区別される。以下では、8月21-23日に開催された「フランス・オープン選手権」をレポートしつつ、フランスのシステムを紹介しようと思う。

 欧州各国のチャンピオン選出システムを見ると、国の事情によって様々であって、統一した基準といったものはない。私自身、欧州各国の選手権システムを逐一調べたわけではないので断定はできないのだが、フランスの選手権システムは、欧州の中でも恐らくは特異なものである。変わっているまず第一の点は、建前上はフランス囲碁連盟の加入者がだれでも参加でき、「チャンピオン」となる可能性があること。そして次に、選手権が四段階に分かれていて、はじめの段階から最終段階までほぼ10ヶ月をかけて、「フランス・オープン・チャンピオン(フランス囲碁連盟加入者の中のチャンピオン)」と「フランス・チャンピオン(フランス国籍のプレーヤーのチャンピオン)」の2つのタイトルを決定することである。他国では、まずチャンピオンを二人決めるというシステムは珍しい。また、決定プロセスにここまで時間をかけているようには見えないし、チャンピオンシップに参加できる人は、ある程度のレベルを持った人に限る、ということが多いように思う。この辺りが、平等の観念に敏感なフランスらしいと思うのであるが、如何であろうか。

 さて、フランス選手権の各段階は、フランス囲碁連盟の組織にほぼ対応していて、その組織は、国レベルのフランス囲碁連盟の下に各地方のリーグがあり、更にその下に各都市のクラブがある、という形をとっている。

第1段階(クラブレベル)
 選手権は1月から2月にかけて、まず各クラブレベルでの第1段階から始まる。ここでは、3級以下の人が第2段階への出場権をかけて争うこととなる。2級以上の人は自動的に第2段階への出場権を得るため、第1段階を打つ必要はない。勿論クラブによっては規模が小さいためこの段階が開けなかったり、他のクラブと共同で行ったりすることもある。2015年でみると、フランス国内に約100あるクラブのうち35程度が第1段階を開催。参加者数はクラブの規模によって3人から20人程度までまちまちであるが、フランス全体では恐らく300人近くが参加していると見られる。

第2段階「地方選手権」
 第2段階は地方リーグレベルでの選手権で、春先に開催される。第1段階の勝ちあがり組に加え、2級以上のプレーヤーが参加する。勝者は各「地方チャンピオン」となる。第2段階の枠抜け者は、第3段階であり、8月末に行われる「フランス・オープン選手権」に進むことができる。地方リーグに関しても、クラブと同様で規模などにかなりばらつきがあり、2015年では、9あるリーグのうち7が第2段階を開催。全体では120人程度が参加した。

第3段階「フランス・オープン選手権」
 「フランス・オープン選手権」に参加できるのは「地方選手権」の勝者だけではない。4段以上のプレーヤー、前年のオープン選手権の上位8人、その年の中学・高校チャンピオンが自動的にオープン選手権への出場権を得ることができる。参加者数は年によって異なるが、20人から30人程度である。「フランス・オープン選手権」の勝者は、「フランス・オープン・チャンピオン」となり、上位入賞者に賞金もでる。この段階までは、フランス囲碁連盟加入者なら、国籍に関係なく参加が可能である。

第4段階
 さて、第4(最終)段階は何か、というと、いわば世界アマ代表決定戦であり、従って参加者はフランス国籍をもったアマチュアプレーヤーに限られる。こちらは「オープン選手権」の上位入賞者に、欧州囲碁コングレスの上位入賞者、またフランスの大会(トーナメント)で最も重要とみなされるパリ囲碁大会の上位入賞者が加わった8人で、通常10月に争われる。勝者は、「フランス・チャンピオン」となり、世界アマの出場権を得る。


食事中も検討に余念がない参加者。(写真:筆者)

対局風景。(写真:筆者)
 こうしたシステムは昔からあったものではない。実は、過去十数年、フランスの選手権システムはかなりの変容を遂げ、特に最終の2段階が様々な変更を受けた。2004年までは、第3段階は単に「第3段階」という名前で、外国人の参加は認められていたが、賞金などもなく、第3段階の上位二人のフランス人が決勝3番勝負を最終段階として争う、という形式だった(決勝を複数局行う、というアジア的なシステムは、現在でも英国をはじめ数カ国で行われている)。これに変化が訪れた、というのは、主にアジア出身で7段以上のプレーヤーが増加したことに起因する。現在フランスランキングの上位3人は韓国出身のHwang Inseong8d、中国出身の戴俊夫(Dai Junfu)8d、樊麾(Fan Hui)2pが占めているが、これは実質的には欧州ランキングの上位3人である。それだけに、こうしたプレーヤーのハイレベルな碁が見たい、というのは自然な流れであろう。こうしたことが、「フランス選手権第3段階」を「フランス・オープン選手権」にグレードアップさせることにつながった。ただし、同時に、外国人プレーヤーの存在によってフランス人プレーヤーの順位、ひいては世界アマ出場権などの決定に影響が出始めたため、第4段階をフランス国籍のアマプレーヤーに限定して、以前よりも大きな大会とすることになった。これは、欧州囲碁コングレスで発生している問題とほぼ同じである。これについては様々な議論があり、今後もシステムが変わる可能性がある。

 さて、今年の「オープン選手権」は、スペイン国境に近いペルピニャン郊外に碁打ちの女性が経営する宿泊施設において開催された。選手権は毎年場所が変わるので、フランス各地を訪れることができるのも魅力の一つである。参加者は全部で26人。Hwang、戴、樊の上位ランキング三人が個人的な都合で参加できず、またフランスを代表する打ち手であるトマ・ドゥバール6dや現フランス・チャンピオンのバンジャマン・パパゾグルー6dも多忙により不参加、というやや寂しい大会となったが、5段以上では筆者に加え、先日のコングレスでフランスの優勝に貢献したバンジャマン・ドレアンゲナイジア6d、中国に半年の修行に行くことが決まったタンギー・ルカルベ6d、フランス選手権第4段階の常連であるジェローム・サリニョン5dの4人が参加した。結果は、筆者が若手の突き上げをやっとのことで抑えて(?)全勝を収め、2012年以来4度目のフランス・オープン・チャンピオンとなった。2位にはドレアンゲナイジア6d、3位にはサリニョン5d、4位にはルカルベ6d、5位には筆者同様日本出身の今村亨4dが入賞した。全体的な印象としては、1-3dあたりの実力が上がり、層が厚くなった感じであるが、ドレアンゲナイジア6dやルカルベ6dの後の世代、10代の若手にもう少し頑張って欲しい。マンガ『ヒカルの碁』が終わった今、いかにして若者を惹きつけるかが課題となっているのは、フランスも同様である。学校で囲碁を普及する活動が仏国内で少しずつ広まりつつあり、こちらに期待したい。

表彰式にて。
 なお、過去の欧州各国チャンピオンのリストは以下のポーランドのホームページ(http://kamyszyn.go.art.pl/champions)で閲覧できる。これだけの情報を収集したことに脱帽である。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年8月19日 ]

欧州囲碁コングレスがチェコで開催

 欧州囲碁コングレスが7月25日から8月8日の二週間にかけて開催された。今年の開催地はチェコ共和国北部、ドイツおよびポーランドとの国境近くに位置するリベレツで、人口10万人強とボヘミア地方有数の都市である。


リベレツの中央広場と市庁舎(写真:筆者)

リベレッツ地方のシンボルであるイェシュティエド山。
コングレスのロゴにも用いられている。(写真:筆者)

レトロ風なトラムが街中を縦横に駆け巡る(写真:筆者)



会場のバビロンセンター(写真:筆者)

トラムの駅にも囲碁コングレスの広告が。(写真:筆者)
 会場はリゾートホテルで同市の名物となっているバビロンセンター。リベレツはかつて繊維産業で隆盛を誇った都市で、プール、ウェルネス、ショッピングセンターなどを備えた広大なバビロンセンターも1990年代に繊維工場を改修して作られたものだという。以前も少し書いたことだが、現在西欧では、これだけの巨大施設を会場とした大会を開催することはコスト面などから言っても非常に難しい。一方東欧は、開催する都市との協力などを得て比較的豪華な大会を提供することに成功している。今後、欧州囲碁コングレスの重心が東欧に移っていくことが予想される所以である。

 チェコは欧州の中で比較的地の利もよく、物価も安いことも手伝ってか、全体では900人近くが参加する過去最大規模のコングレスとなった。

 欧州囲碁コングレスは、勿論メイン大会および欧州選手権が中心行事だが、これに加えてプロによるレッスン、指導碁、サイドトーナメントなどが開催される。US囲碁コングレスの内容と比較されると面白いと思うが、その違いが際立っているのがサイドトーナメントで、早碁、9・13路盤、若者向け、ベテラン向けの大会、ペア碁、連碁といった大会のほかに、「サッカー大会」「レディース大会(女装者の参加も可)」「ビール大会(ビール一杯が対局1勝分と同じポイントになる。チェコは一人あたりのビール消費量が世界一であるという)」といった楽しい大会が開かれるのも欧州的なユーモアである。

トップグループの会場。(写真:筆者)


欧州選手権決勝、ジャバリン1pと樊2pが激突。
(写真:Olivier Dulac)

若手が頑張って国別対抗戦に優勝したフランス。
(写真:Olivier Dulac)
 さて、今回の欧州囲碁コングレスでは、欧州のチャンピオンを決める欧州選手権のシステムが大きく変化したことが特筆される。コングレスのメイン大会には欧州の選手以外にもアジアなどからの参加者があり、これが欧州選手権そのものの順位を乱すことが以前から問題となっていて、これを是正すべく様々なシステムが試されている。今回のシステムは、一言で言えば「欧州選手権の参加者を欧州のパスポートを保有する上位24人に限り、選手権を7局で第一週目のうちに終了させる」というもので、4局の予選を経て選ばれた上位8人がノックアウト方式の3局を打ち、勝者を決定するという方式である。要するに、第一週目はアジア強豪と欧州トップとの対局がない。これにより、純粋に欧州選手だけでチャンピオンを決定することができる。しかし、その一方で欧州選手権を終えた欧州のプレーヤーの中には、その後のメイン大会に合流せず帰国する者も多く、第二週目はトップの対局がやや寂しくなった感も否めない。このシステムが今後定着するかは分からないが、将来的にも議論は続くだろうと思われる。


 その欧州選手権はフランスの樊麾2pがイスラエルのアリ・ジャバリン1pを決勝で破り、3連覇を果たした。三位にはロシアのイリヤ・シクシン1p、四位にはフランスのトマ・ドゥバール6dが入賞、フランスとしてはベスト4に二人を送り込む快挙となった。フランスは、コングレスの冒頭に開催されたパンダネット主催の国別対抗戦でも初優勝を果たしており、個人・団体ともにその底力を見せつけた。

 メイン大会は中国西安出身のWang Zemingプロが全勝優勝した。準優勝はいまや欧州大会の常連となった金永三7段、これに、欧州選手権から合流したパボル・リジー1p、アリ・ジャバリン1pが続いた。

メイン大会の入賞者。(写真:筆者)
 来年の欧州囲碁コングレスは、ロシアのサンクトペテルブルグにおいて開催される。2017年はトルコでの開催が決まっているが都市は未定。2018年の開催国はまだ決定されていない。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年7月6日 ]

フランスの「マラソン」大会

 夏のバカンスを前にした6月から7月にかけて、欧州では大きな大会の数が徐々に少なくなる。欧州囲碁データベース(http://www.europeangodatabase.eu/EGD/)でみると、6-7月にかけて参加者が60人を超えた大会は6つあったが(独ダルムシュタット大会、墺ウィーン大会、露カリーニングラードのバルチック・カップ、スロバキアの「スロバキア碁フェスティバル」、仏モンペリエ大会と「マラソン」大会)、なんと、そのうち2つがフランスの大会である。今回はその一つ、6月20-21日の週末に開催された「マラソン」大会についてレポートしよう。

 先日、大規模な大会が多いのはドイツだ、と書いたが、あらゆる規模の大会を含めた場合、数の多さではフランスが一頭地を抜いている。クラブ内部でのリーグ戦のような小規模な大会が定期的に開かれているのが一つの理由だが、地方のクラブが外向けに開催する大会の数も少なくない。特に4月頭から6月末にかけては目白押し、すべての週末にフランスのどこかで少なくとも一つ、多い場合には三つの大会が開催される、といった具合で、どこに行くか迷わされることも少なくない。こうした大会は、ある場所を借り切って週末泊り込みで行われるのが一般的である。


風光明媚なピリアックの街。(写真提供:François Mizessyn)
 フランスの囲碁大会、特にパリ以外の地方大会は他国に比べてやや変わっていると思う。ある大会が終わった後に、参加者の一人に結果を尋ねるつもりで「今回の大会はどうだった?」と聞いたら、「まあ、よかった。天気もなんとかもったし…」という返事が返ってきて、自分の成績をまったく気に留める風がないのでびっくりしたことがあったが、囲碁よりも全体の雰囲気を楽しんで、一生懸命遊ぶのがフランス流である。賞金はなく、どちらかというと、参加者の多くにワインであるとか、ゲームであるとか、いろいろな賞品が出ることが多い。こうした大会は一見さんには敷居が高いかもしれず、その分国際色は薄い。グルノーブル、マルセイユ、クレルモンフェラン、モンペリエ、…フランスには幾つか、ほぼフランス人だけで80人から100人近くを集める地方大会がある。「マラソン」大会も、そんないかにもフランスらしい大会の一つだ。

 場所は、フランス西部、ナントからさらに車で一時間走ったところにあるブルターニュ半島南岸のピリアック・スュール・メール(Piriac-sur-Mer)。美しい海岸から1キロほど入ったところに、仏碁界のベテランであるフランソワ・ミゼシン4dが大きなキャンピングを経営していて、10年前からこの「マラソン」大会に会場を提供している。大会そのものは、ナントのMiaiクラブが組織している。

 さて、「マラソン」という名前は、大会のシステムから来ている。大会は全8局、持ち時間は1時間+秒読み(5分で15手を打つというカナダ方式)。土曜日朝9時の大会開会から日曜日の17時の表彰式まで、4時間ごとに対局がある。すなわち、土曜日の9時、13時、17時、21時、日曜日の朝1時、5時、9時、13時に容赦なく対局が始まる。


晴れている時は、テラスで対局。
(写真提供:François Mizessyn)

対局場の隣にあるプール。(写真提供:François Mizessyn)
 

 まさに鉄人レースである。もちろん、8局すべてを打つ義務はなく、疲れた場合は対局場の横にある巨大プールに飛び込んで心を休めることも、海岸にいって物思いにふけることも、街に出て海の幸を堪能することも可能である。ただし、勝利した場合は3ポイント、敗北した場合は1ポイントを獲得するのに対し、対局しなかった場合ポイントは獲得できない。この総ポイントで優勝を決めるシステムである。



碁の検討をする(?)参加者たち。
(写真提供:François Mizessyn)
 この大会が始まった10年前、フランスは『ヒカルの碁』が大成功を収めて、若い世代を中心に囲碁を始める人が増え、仏囲碁連盟の加盟人数もぐんと増えた時代で、あちこちに大会が乱立したものだった。ただし、この時代に始まった大会で生き延びたものはあまりない。その中でこの「マラソン」大会は、大会システムの面白さ、場所の心地よさ、キャンピングの運営者ミゼシン4dの尽力(例えば、土曜の夜中にバーで飲み物をノンストップで提供し続けるのは彼である)もあって、見事にフランス西部で人気の大会として定着。今年の大会参加者は72人と、これまで最高を記録した。なお、囲碁を打たずにのんびりと週末を過ごした囲碁打ちもさらに20人ほどいた模様で、全体では90人程度が参加した計算になる。

 参加者のレベルは初心者レベルから6段までと幅広く、段位者も13人参戦した。全局を打ちきった猛者たちは17人。やはり夜中の対局、もしくは朝9時の対局を睡眠に当てた参加者が多かったようである。ちなみに、誰が優勝したのかとミゼシン4dに聞いてみたところ、「バンジャマン・ドレアンゲナイジア6dが有力候補だったが、土曜日の夜にすやすや寝てしまって5勝どまりだったし、ええと、誰だったかな。発表された結果を見る限りは複数の人が優勝の可能性があるんだが・・・。」とのことであった。お疲れ様です。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年6月22日 ]

ハンブルグKido Cup、ジャバリン1pが優勝

 現在、西欧で大規模な大会を開催している国というと、何といってもドイツである。今年に入ってから6月末まで参加者が80人を超える大会はすでに8にのぼり、他国の追随を許さない。もともと人口が多いことと、クラブ組織がしっかりしていることが理由だろうし、また中欧や東欧との距離的な近いことで、欧州レベルでの国際大会が開きやすいこともあるだろう。

 これらの大会の中でも頂点にたつのが、今年で7回目を迎えるハンブルクのKidoカップである。開始以来、ほぼ毎年200人近い参加者を集めており、現在、欧州最大の大会といっても過言ではない。Kidoの名前の由来は「棋道」かと思いきや、スポンサーである韓国の企業Kido Industrial(モータースポーツの備品などを製造)から来ている。 こうしたスポンサー探しの巧みさもドイツの大クラブは一流である。スポンサーが韓国企業であることに加え、現在、ドイツには韓国棋院の尹暎善8pが在住していることもあって、同大会には毎年韓国の有名プロが訪れる。5月23日から3日間にわたって開催された今回も、2003年に富士通杯で準優勝した宋泰坤9pをはじめとした豪華な顔ぶれが指導を行った。

指導に訪れたプロ達。中央で挨拶するのが尹暎善8p。
その右には宋泰坤9p、マルティン・スティアスニー欧州囲碁連盟会長の顔も見える。(写真提供:Olga Silber)

 大会そのものはトップグループと一般大会からなり、このほか子供向けの大会などのサイドイベントも開催される。トップグループは欧州の国籍を持った8人の総当りリーグが特徴で、いわば、先日ベルリンで開催されたグランドスラム大会の先駆けとでも言える大会である。今回トップグループに参加したのは、以下の8人で、欧州ランキングにしたがって選抜された。

名前国籍
樊麾(ファン・フイ)2pフランス
イリヤ・シクシン1pロシア
パボル・リジー1pスロバキア
アリ・ジャバリン1pイスラエル
アレクサンダー・ディナーシュタイン3pロシア
クリスチャン・ポップ8d ルーマニア
アルテム・カチャノフスキー6dウクライナ
コルネル・ブルゾ6dルーマニア


1回戦。手前がブルゾ6d(左)と樊2p、奥にカチャノフスキー6d(左)とシクシン1p。(写真提供:Olga Silber)

 欧州連盟のプロとしてはスルマ1p以外の3人が参加した。ランキング上トップの樊2pは中国出身で2000年からフランスに在住、フランス囲碁連盟の公式指導員として活躍してきた。数年前にフランス国籍を取得、この大会では2013年に優勝経験がある。現欧州チャンピオンでもあり、当然下馬評も有利の予想だった。

 さて、本大会のコミは7目で、ジゴありのシステム。ジゴが発生した場合は、両対局者とも半星とカウントされるというシステムである。ドイツはどういうわけか、自国の選手権でも整数のコミを用いて独自の路線を行っているのだが、これが今回は微妙に結果を左右することとなった。


ジャバリン1pが初の栄冠に輝く。
(写真提供:Olga Silber)

 初戦、樊2pは先日世界アマで欧州最高の6位に入賞したブルゾ6dと対局の結果、これがいきなりジゴとなった。また、優勝候補の一人シクシン1pはカチャノフスキー6dに一発食らい、波乱含みのスタートとなった。前半4回戦が終わった時点で、樊2pとリジー1pが共に3.5勝で並び、これにシクシン1pとジャバリン1pが2勝で追う展開。さすがに3.5勝組が有利か、と思いきや、ここから更に混迷が待っていた。最終の三回戦において、樊2pはディナーシュタイン3pとシクシン1pのロシア勢に屈して星を4.5勝までしか伸ばすことができず、リジー1pも3連敗して3.5勝で大会を終えた。後半ぐんぐんと伸びたのがシクシン1pとジャバリン1pで、共に強敵をなぎたおし、3連勝して5勝2敗で並んだ。ジャバリン1pはシクシン1pを第3回戦で倒していたため、直接対決の結果が優先されて初優勝を飾り、優勝賞金1200ユーロを獲得した。実は、新プロの中でこれまでジャバリン1pの評価はほかの三人に隠れがちだった感じがあったのだが、ここにきてその真価を発揮したといえるだろう。

順位名前勝数
1アリ・ジャバリン1p5
2イリヤ・シクシン1p5
3樊麾2p4.5
4パボル・リジー1p3.5
5アレクサンダー・ディナーシュタイン3p3.5
6コルネル・ブルゾ6d2.5
7クリスチャン・ポップ8d2
8アルテム・カチャノフスキー6d2

 なお、一般向けの大会では中国出身のXu Yin5dが優勝。これに、パル・バログ6d(ハンガリー)、デュシャン・ミティッチ6d(セルビア)、ルカス・ポドペラ6d(チェコ)、タンギー・ルカルベ6d(フランス)といった本来ならトップグループで碁を見たい!と思わせる面々が続いた。


大会会場。(写真提供:Olga Silber)

「碁を打ちなさい!」の
メッセージつき手編みのセーター。
(写真提供:Olga Silber)

(なお、このレポートを書くにあたって助けていただいたTobias Berbenさんに感謝します。)
[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年6月12日 ]

アムステルダム囲碁大会


オランダチャンピオンのメルリン・クイン6d(左)とチャバ・メロ6dの対局。激闘の末の「大碁の細碁」は、メロ6dが制す。(写真提供 : Judith Van Dam from EurogoTv)

 欧州では、5月はメイデー(1日)、キリスト昇天祭、聖霊降臨祭(こうしたキリスト教関係の休日は、イースターの時期によって移動する)といった休日を含む大型連休が多く、大きな大会が目白押しである。キリスト昇天祭の休日は常に木曜日と定められているのだが、これから始まる4日間はアムステルダム囲碁大会が毎年の風物となっており、今年は、5月14-17日にかけて開催された。奇しくも、モスクワの欧州ペア碁選手権と同時となったのはやや残念である。開催場所は、岩本薫九段がかつて寄贈された、アムステルダム郊外にある欧州囲碁センター。メイン大会そのものは一日2ラウンドの合計6ラウンドで、木、土、日の3日間にかけて打たれる。金曜日は一応平日で仕事をする人もいるためメイン大会はお休みとなり、特別に早碁トーナメントが開催されるという具合である。

 歴史のある大会だが、かつて盛況を誇ったオランダの囲碁そのものが最近やや低調であることも影響しているのか、2010年以降、参加者数が100人を切るような時期もあった。しかし、今年の参加者は101人と、2年連続で100人を超えて復調の兆しを見せ、また、5段以上が10人とハイレベルな大会となった。

 結果、全勝者はなく、上位3人が共に5勝で並ぶ激戦となったが、日本棋院元院生のチャバ・メロ6d(ハンガリー)が優勝を飾った。2位はフランス期待の若手の一人タンギー・ルカルベ6d、3位は中国出身で現在スウェーデンに留学中の付亜奇(Fu Yaqi)6dが占めた。


左から、ルカルベ6d、メロ6d、付6dの上位三人。(写真提供 : Judith Van Dam from EurogoTv)

 地元オランダからは、若手のエールベーク5dが4位に食い込む健闘を見せた。上位入賞者は以下のとおり。
1チャバ・メロ 6dハンガリー
2タンギー・ルカルベ6dフランス
3付亜奇 6d中国
4アレクサンダー・エールベーク 5dオランダ
5ルカス・クラメール 6dドイツ
6ペーター・ブラウワー 6dオランダ
7ベンヤミン・トイバー 6dドイツ
8メルリン・クイン 6dオランダ


ハリーさんとジュディットさん(写真提供:Guo Juan プロ5段)
 今回のアムステルダム大会では、一つ悲しいニュースがあった。個人のイニシアチブで、欧州主要大会のビデオストリーミング中継を行ってきたオランダのEurogoTvが、この大会を最後にサービスを停止することが発表されたのである。

 EurogoTvは、8年前に、ハリー・ウィールハイムさんとジュディット・バンダムさんのカップルが創設。アジアのように、囲碁大会の様子を生中継し、インターネットで配信するという、当時としては画期的なアイデアで人気を集めた。しかし、欧州囲碁が未だに成熟していないこともあり、残念ながら経済的な成功を収めるには至らなかった。痛恨の極みである。私も、これまでのレポートでジュディットさんの写真を許可を頂いた上でずいぶんと借用させていただいた。心からお疲れ様といいたい。今回は実らなかったけれど、8年間の努力が、いつか、どこかで大輪の華を咲かせますように…。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年6月3日 ]

ルーマニアの囲碁事情

 小国でありながらヨーロッパ屈指の囲碁強豪国、ルーマニア。その囲碁事情をアマチュア高段者のコルネル・ブルゾ氏に聞いた。

 ルーマニアの囲碁は、1980年代初頭に、首都ブカレストで小さなグループが集まって始まった。そのメンバーの中には著名な数学者であり、「Introduction to GO(ルーマニア名「Inițiere în GO」)」(1985年出版)「250 GO Problems(ルーマニア名:「250 De Probleme de Go」)」(1987年出版)といったルーマニア語の囲碁教則本を著したゲオルゲ・パウン氏もいた。ルーマニア囲碁協会が設立されたのは1990年のことである。

 現在、ルーマニアには約20の囲碁クラブがあり、大会に出場する囲碁愛好者は300名を超える。アジアやアメリカ、ヨーロッパ他国と比べると、まだ囲碁人口は少ないが、ヨーロッパ有数の囲碁強豪国となっている。その秘密は90年代に日本で腕を磨いた選手が母国に戻って、囲碁普及に尽力していることである。カタリン・タラヌ・プロ五段は日本棋院のプロ棋士となって活躍した後、2004年に帰国、現在ではルーマニアでの指導と普及に努めている。また、当時の若手だったクリスチャン・ポップ7d、ロベルト・マテスク6d、ソリン・ゲルマン6d、ミレル・フロレスク6d, ドラゴシュ・ベジャナル6d 、バレンティン・ゲオルギウ5dも短期間ながら日本で院生として腕を磨き、ルーマニアの囲碁のレベルをヨーロッパのトップレベルに押し上げた。

 また、パンダネットを始めとするオンラインサーバーも囲碁の普及に貢献した。私自身もパンダネットなどで対局を重ねて力をつけた。お蔭でルーマニアチャンピオンになり、今年6月にタイで開催される「世界アマチュア囲碁選手権大会」の代表の座を獲得した。

 また、パンダネットが主催している国別対抗の欧州チーム選手権(Pandanet Go European Team Championship)で、ルーマニアチームは今年、チェコ、フランス、ウクライナと共にベスト4に進出した。決勝ラウンドは今年のヨーロッパ碁コングレス(チェコ・リベレッチにて開催)にて行われる。ベスト4進出は、2位を獲得した2010-2011年シーズン以来2度目となる。

 若手にも強豪選手が育ってきている。アレクサンドル・ピトロプ4dは、昨年のヨーロッパ青少年選手権の16歳以下の部で優勝。また、デニス・ドブラニス1dは、今年12歳以下の部で優勝を果たした。

 最後に、今年ルーマニアで開催される様々な囲碁関連イベントについて触れておこう。6月末には、黒海のほとりで夏季囲碁キャンプが開かれ、この機会にルーマニア選手権の決勝ラウンドおよびルーマニア囲碁協会の総会も開催される。また、9月19-20日には、大学都市で有名なクルジュ・ナポカにおいて、ヨーロッパ学生選手権を開催する。こちらの大会でのルーマニア選手の健闘も期待したい。


アマ高段者の
コルネル・ブルゾ氏

日本でプロになった
カタリン・タラヌ五段

強豪揃いのルーマニアチーム

[ 記事:コルネル・ブルゾ ]

囲碁ニュース [ 2015年5月25日 ]

欧州ペア碁選手権

 欧州ペア碁選手権が5月16-17日にかけてロシア・モスクワにおいて開催された。東欧の囲碁連盟は国家の支援を受けているところも多く、最近は開催イベントの質も大変上がっており、その点で、経済的には豊かだが国家援助がない西欧との間である意味逆転現象が起きている。


モスクワのアルファホテルの会議場が会場となった。(写真提供 : Mikhail Krylov)

地元の子供達も多く参加。(写真提供 : Kirill Akinfeev / Mikhail Krylov)

 それはさておき、大会には40ペアが参加した。主催国ロシアが30ペア(!)を準備し、ロシア以外からはドイツ(2ペア)、オランダ、スイス、イタリア、セルビア、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ベラルーシのペアが参加した。恐らく、政情問題などがなければ更にペア数も増えていただろう。


昨年の世界ペア碁選手権にも参加した、ナターシャ・ボスニアック2k(左)とドラガン・デュバコビッチ3dのセルビア・ペア。(写真提供 : Kirill Akinfeev)

ドイツのヨハネス・オーブナウス5d(左)とビビアン・シュープライン1dのドイツ・ペア。(写真提供 : Kirill Akinfeev)

 大会は、スベトラナ・シクシナ3pとイリヤ・シクシン1pのロシア・プロ姉弟が6連勝で優勝を飾った。ロシア外のペアでは、リタ・ポチャイ5dと元日本棋院院生のパル・バログ6dのハンガリー・ペアが5勝を上げた。上位順位は以下のとおり。


優勝したシクシナ3p(左)とシクシン1p。オーガナイザーの用意したパネルが豪華。(写真提供 : Kirill Akinfeev)

2位のカルルスベルグ4d(左)とディナーシュタイン3pのロシア・ペア。カルルスベルグ4dは昨年の世界ペア碁選手権にも出場。
(写真提供 : Kirill Akinfeev / Mikhail Krylov)

パル・バログ6d(左)とリタ・ポチャイ5dのハンガリー・ペア。(写真提供 : Kirill Akinfeev)

ドミトリー・スリン6d(左)とナターリャ・コバレバ5dのロシア・ペア。(写真提供 : Kirill Akinfeev)

順位女性男性勝数
1スベトラナ・シクシナ3pイリヤ・シクシン1pロシア6
2エルビナ・カルルスベルグ4dアレクサンダー・ディナーシュタイン3pロシア 5
3リタ・ポチャイ5dパル・バログ6dハンガリー5
4ナターリャ・コバレバ5dドミトリー・スリン6dロシア4
5マーニャ・マルツ3dミヒャエル・パラント5dドイツ4
6ティムール・サンキン5dソフィア・マズロバ1dロシア4

(なお、記事作成にあたりお世話になったナターリャ・コバレバ5dに心より御礼申し上げます。)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年5月12日 ]

ベルリン・グランドスラム大会

 欧州ではキリスト教の復活祭(イースター)は重要な祭事である。特に、イースターの月曜日の休日を含んだ週末は多くの国で大型連休となる。この週末は伝統的にパリ囲碁大会の開催時だったのだが、今年は新たにベルリンの「グランドスラム」大会が加わり、独仏首都での大会が競合することとなった。ここでは、主にベルリンのグランドスラム大会についてリポートする。

 欧州囲碁連盟のプロをはじめとした欧州のトッププレーヤー12人が参戦し、これまでにない規模の賞金額を伴う「グランドスラム大会」の内容については、前回の「ストラスブール大会」レポートに譲る。ドイツでは復活祭の月曜日に加え、復活祭直前のいわゆる「聖金曜日」も休日となるため、4月3日から6日までの四連休を利用した豪華な大会となった。会場はベルリンの中国文化センター。

 第一回戦は欧州連盟のプロ4人を除いた8人が「予選」を行った。勝者は次ラウンドに進むことができ、最低500ユーロの賞金が保証されるが、敗者は脱落で、賞金もないという、まさに天国と地獄の狭間とでも言うべきラウンドである。

一回戦(左が勝者、以下同様)
クリスチャン・ポップ7d(ルーマニア)フレデリク・ブロンバック6d(スウェーデン)
アルテム・カチャノフスキー6d(ウクライナ)ビクトール・リン6d(オーストリア)
アレクサンダー・ディナーシュタイン3p(ロシア)オンドレイ・シルト6d(チェコ)
アンドリー・クラベッツ6d(ウクライナ)タラヌ・カタリン5p(ルーマニア)
写真左:タラヌ・カタリン5p  写真右:アンドリー・クラベッツ6d (写真提供:Judith Van Dam from EurogoTV)

 カタリン5pが一回戦でクラベッツ6dに破れるという波乱があった。クラベッツ6dは中国にて修行中で、スポンサーであるCEGOの推薦で出場した。

 第二回戦(準々決勝)以降はトーナメント方式で、負けても順位戦に進むことができる。一回戦勝者組と欧州連盟プロとの激突となった。

準々決勝
クリスチャン・ポップ7dパボル・リジー1p(スロバキア)
アリ・ジャバリン1p(イスラエル)アルテム・カチャノフスキー6d
イリヤ・シクシン1p(ロシア)アンドリー・クラベッツ6d
マテウス・スルマ1p(ポーランド)アレクサンダー・ディナーシュタイン3p
写真左:リジー1p  写真中央:ポップ7d  写真右:カチャノフスキー6d(左)とジャバリン1p (写真提供:Judith Van Dam from EurogoTV)

 結果は、リジー1pがベテランのポップ7dに敗れたものの、欧州連盟プロの3人は準決勝に駒を進めた。ディナーシュタイン3p(韓国棋院)はここで脱落した。

準決勝
イリヤ・シクシン1pクリスチャン・ポップ7d
マテウス・スルマ1pアリ・ジャバリン1p

 準決勝では、シクシン1pとスルマ1pが勝利、決勝は先日イタリアで行われた予選会で新たにプロとなった二人の対決となった。

決勝
イリヤ・シクシン1pマテウス・スルマ1p
決勝戦。スルマ1p(左)とシクシン1p。(写真提供:Judith Van Dam from EurogoTV)

 決勝戦ではロシアのシクシン1pが独特の力強さを発揮して勝利、賞金1万ユーロを獲得した。以下、最終順位は以下のとおり。

1位イリヤ・シクシン1p
2位マテウス・スルマ1p
3位アリ・ジャバリン1p
4位クリスチャン・ポップ7d
5位パボル・リジー1p
6位アルテム・カチャノフスキー6d
7位アレクサンダー・ディナーシュタイン3p
8位アンドリー・クラベッツ6d
入賞者(写真提供:Judith Van Dam from EurogoTV)
後列左よりディナーシュタイン3p、カチャノフスキー6d、リジー1p、ポップ7d 前列左よりスルマ1p、シクシン1p、ジャバリン1p

 なお、グランドスラム大会と並行して、4月4日からは一般のプレーヤーも参加できる「China Cup」囲碁大会が開催された。実は、「China Cup」そのものは数年前から中国文化センターにおいて開催されており、形式上でいうと、同大会にグランドスラム大会が加わった、ということになろうか。こちらは、グランドスラム大会の効果もあってか参加者90人と例年の倍近くの人を集めた。大会結果は、韓国出身で現在英国在住の呉治民8段が優勝、グランドスラム大会から合流したカタリン・プロが2位に、3位には同じくルーマニアのコルネル・ブルゾ6段が入賞した。

金7d(左)と載8dの対局(写真提供:筆者)

 最後に、同じ週末に開催されたパリ大会について一言付け加えておく。こちらは昨年同様パリの凱旋門からもほど近いヌイイー市で開催され、96人が参加した。近年は組織の問題に苦しんでおり、2000年代の半ばには300人を超える参加者があっただけに、規模が縮小しているのはやや寂しいものの、ベルリンの大会に匹敵する人数を集めたことは特筆されてよい。また、再び以前のようなパリ大会を組織しようとの声も高まっており、それに向けた動きも始まっている。大会は、韓国の金永三7dがフランスの載俊夫8dを破り優勝した。

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年4月1日 ]

ストラスブール囲碁大会

 3月21-22日の週末に仏ストラスブール囲碁大会が開催された。例年は5月末に開催されるのだが、今年は、4月頭にベルリンで行われる「CEGOグランド・スラム大会」の予選会を並行して開催することとなったため、特別に2ヶ月前倒しされた。以下では、両大会についてレポートする。

CEGOグランド・スラム予選会

 「CEGOグランド・スラム」は、欧州プロシステムのスポンサーを務める中国の企業CEGO(Beijing Zong Yi Yuan Cheng Culture Communication Co. Ltd.)と欧州囲碁連盟(EGF)が共催する新大会で、賞金総額は2万ユーロ。1位は1万ユーロ、2位5000ユーロ、8位でも500ユーロと、欧州としては破格とも言える賞金額を誇る。いわば、欧州プロシステムの安定化を目指して創設された大会である。ただし、参加者は12人限定で、欧州の国籍を10年以上持っていることが条件となるほか、いくつかの選考基準をクリアする必要がある。ストラスブールの予選会以前では、12人中、8人の参加が決定していた。すなわち、欧州プロ入段手合を経てプロとなった4人はシード。ついで、この4人を除いて 欧州ランキングでの順位が最も高い二人としてカタリン5p(日本棋院)とディナーシュタイン3p(韓国棋院)が選抜された。

ポドペラ6d(左)とシルト6dというチェコ同士の対決。
中央はクレメール6d。(写真提供:筆者)
ドレアン=ゲナイジア6dは2位同率の3勝をあげるも
運悪く足切りに。(写真提供:筆者)
グランド・スラム参加資格を得たシルト6d(左)とリン6d、
賞品はアルザス・ワイン。表彰式にて。(写真提供:筆者)
また、欧州囲碁連盟から特別な認定を受けた2014年開催の5大会、すなわちストラスブール、アムステルダム、ウィーン、欧州囲碁コングレス(ルーマニア・シビウ)、ロンドンの大会における結果に従って「ボーナスポイント」が各選手に配分されたが、これらの大会で好成績を収めポイントが高かったブロンバック6dおよびポップ7dも参加資格を得た。これに加え、EGFおよびCEGOの推薦によるワイルドカードが二人、そして今回のストラスブールにおける予選会で選ばれた二人が12人の枠に入る、というわけである。

 さて、今回の予選会の参加条件は「2014年12月-2015年2月の期間に欧州ランキングで一度でも2550点(6段)に達したことがあること」。欧州出身の6dは現在30人程度だが、予選通過が2人という狭き門だったことが災いしたか、参加者は6人にとどまった。先日のプロ入段手合にも参加したルカス・ポドペラ6d、オンドレイ・シルト6d(共にチェコ)、チャバ・メロ6d(ハンガリー)、ビクトール・リン6d(オーストリア)の各氏に加え、ドイツチャンピオンのルカス・クレメール6d、フランス期待の若手バンジャマン・ドレアン=ゲナイジア6dが参加。人数が少なかったことから、総当りのリーグ戦方式が採用された。

 この中で抜けだしたのは日本で院生経験のあるシルト6dで、一人4連勝と突っ走り、最終局も勝って悠々グランド・スラム大会への参加資格を獲得した。過去は7dに昇格したこともある実力者で、ここのところ結果がでていなかったが、ここに来て底力を見せた。2位争いは混沌とし、最終局の前の時点でリン6d(3勝)とポドベラ6d(2勝)に候補が限られる展開になったが、結果は両者とも負け、リン6dが滑り込んだ。

 なお、ワイルドカードにはアンドリー・クラベッツ6dとアルテム・カチャノフスキー6dの二人がウクライナから選ばれ、12人の参加者がすべて出揃った。

第1回CEGOグランド・スラム参加者

名前段位国籍プロフィール
パボル・リジー1pスロバキア欧州囲碁連盟プロ
アリ・ジャバリン1pイスラエル欧州囲碁連盟プロ
マテウス・スルマ1pポーランド欧州囲碁連盟プロ
イリヤ・シクシン1pロシア欧州囲碁連盟プロ
タラヌ・カタリン5pルーマニア 欧州ランキング
アレクサンダー・ディナーシュタイン3pロシア 欧州ランキング
フレデリク・ブロンバック6dスウェーデンボーナスポイント
クリスチャン・ポップ7dルーマニアボーナスポイント
オンドレイ・シルト6dチェコ

予選会通過

ビクトール・リン6dオーストリア予選会通過
アルテム・カチャノフスキー6dウクライナEGF推薦ワイルドカード
アンドリー・クラベッツ6dウクライナCEGO推薦ワイルドカード
コルネル・ブルゾ6dルーマニア補欠

 誰が記念すべき第1回大会(4月4-6日)を制するか、今から注目である。

ストラスブール囲碁大会、メイン大会

 メイン大会についても触れておこう。ストラスブール大会は2009年に始まり、今回が7回目とまだ若い大会であるが、欧州の強豪が多く集う大会として定着し、ここ数年は80人近い参加者を集めている。大会の目玉となるのは16人からなるトップグループで、4回戦ノックアウト方式によって勝者を決定する。ただし、負けて「さようなら」ではなく、皆が最後まで対局するのがこちらのスタイルで、トップグループで敗北したプレイヤーはトップグループそのものからは離脱するものの、残りの参加者との対局、いわば順位戦に回ることになる。

メイン会場。先日の世界学生王座戦に参加したラウラ・アブラム3d(ルーマニア、手前右)の顔も見える。(写真提供:筆者)

 今年は時期的な事も影響したか、参加者数は60人程度にとどまったが、そのうち半数以上が段位者、6d以上が7人という恐ろしくハイレベルな大会になった。参加者中ランキングトップの載俊夫8d(フランス)を迎え撃つのは、金永三(キム・ヨンサム)7d、呉治民(オ・チミン)7dという韓国棋院元院生の両強豪。共に、現在は英国に留学中である。両者とも欧州ならびにフランスに馴染みが深く、金7dは2011年ボルドーの欧州囲碁コングレス・オープン大会や2014年パリ大会の勝者、呉7dも2009年のパリ大会で優勝経験がある。7dというよりもむしろ8dである。

トップグループおよび予選会の会場。

 準決勝に残ったのはこの3人に加えて、むしろ6d に近い7dの筆者の4人。組み合わせは仏在住組(載 – 野口)と英在住組(金 – 呉)同士の対局となった。後者の対局は金7dが制し、載8dとの決勝に…と思いきや、あろうことかポカでこれまで15連敗中の筆者が勝ってしまった。しかしサプライズもここまでで、決勝は金7dがしっかりまとめてストラスブール大会初優勝を飾った。5位、6位にはトマ・ドゥバール6dおよびバンジャマン・パパゾグルー6dの新旧フランスチャンピオンが続いた。

第1回CEGOグランド・スラム参加者

順位名前段位
1金永三7d韓国
2野口基樹7d日本
3載俊夫8dフランス
4呉治民7d韓国
5トマ・ドゥバール6dフランス
6バンジャマン・パパゾグルー6dフランス
両端は閉幕式のプレゼンテーターを務めた2014年フランス・ペア碁代表のニョシ2d(左)とフネック5d、
それ以外は左から金7d、筆者、呉7d、載8d。(写真提供:Ngoc-Trang Cao)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年3月25日 ]

2015年欧州青少年選手権(EYGC)

オランダ北海沿岸のザントフォールトにおいて、3月12-15日にかけて欧州青少年選手権(EYGC)が開催された。欧州強豪の登竜門とも言える大会である。


大会会場の前には北海が広がる(写真提供:Gerald Garlatti)

EYGCは数年前から12歳未満(U12)、16歳未満(U16)、20歳未満(U20)の3カテゴリーに分かれて競われている。今年は、U12では31人、U16では53人、U20では20人と、総勢104人が参加した。参加者のレベルを見ると、U12では20級から2段、U16では24級から5段まで。U20では、昨年プロ入段したパボル・リジー初段も参戦した。



左:パボル・リジー初段(写真提供: Judith Van Dam from EuroGoTV)
真ん中:ぬいぐるみとペア碁? 右:サングラスが決まっています (ともに写真提供:Gerald Garlatti)

U12優勝のドブラニス1d
(写真提供: Judith Van Dam from EuroGoTV)
U16を制したカイミン3d
(写真提供: Judith Van Dam from EuroGoTV)
ルカルベ6d(左)とポドペラ6dの2位争い
(写真提供: Judith Van Dam from EuroGoTV)

各カテゴリー上位3位の結果は以下の通り。

U12
1 デニス・ドブラニス1d(ルーマニア)
2 アルベド・ピットナー2d(ドイツ)
3 ビルジニア・シャルネバ2k(ロシア)
U12では、昨年3位のピットナー2dと2位のドブラニス1dがそれぞれ一つずつ順位をあげ、準優勝、優勝を飾った。

U16
1 バジェスラフ・カイミン3d(ロシア)
2 バレリー・クルシェルニツキー3d(ウクライナ)
3 ステパン・ポポフ5d(ロシア)
U16ではカイミン3d、クルシェルニツキー3d、ポポフ5dの3人が1敗で並ぶ混戦だったが、カイミン3dがSOS(対戦相手の勝ち数の合計)の差により優勝した。

U20
1 パボル・リジー1p(スロバキア)
2 ルカス・ポドペラ6d(チェコ)
3 タンギー・ルカルベ6d(フランス)
U20は、パボル・リジー1pが苦戦しつつも優勝。2位には昨年優勝のポドペラ6d、3位にはフランスからルカルベ6dが入賞した。


 東欧が圧倒的な力を見せているが、これは囲碁がマインド・スポーツとして認められ、学校でもチェスト並んで教えられているケースがあるためと見られる。
 12歳未満優勝のドブラニス1dと16歳未満優勝のカジュミン3dは、世界青少年選手権への出場権を獲得。一方、20歳未満優勝のパボル・リジー・プロ初段は、グロービズ杯世界囲碁U-20への出場権を得た。なお、EYGCは毎年各国の持ち回り制で開かれており、来年は、セルビアで開催される予定となっている。

フランスチームはお揃いのパーカーで参戦(写真提供:Gerald Garlatti)
会場を前に全参加者の集合写真(写真提供:Gerald Garlatti)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年3月12日 ]

第2回欧州入段手合:
スルマ7d(ポーランド)、シクシン7d(ロシア)が新たに入段


ピサの大会会場(写真提供:欧州囲碁連盟)
 3月6日から8日の3日間、イタリアのピサにおいて第二回目となる欧州プロ入段手合が開催された。おさらいをしておくと、前回の第一回手合は昨年の5月末から6月にかけて、ストラスブール(フランス)、アムステルダム(オランダ)、ウィーン(オーストリア)の三大会にわたって開催された。記念すべき欧州囲碁連盟初のプロとなったのは、スロバキアのパボル・リジー、イスラエルのアリ・ジャバリンというどちらも「囲碁小国」出身の二人の若者で、新時代の到来を印象づけた。

 今回は前回と違い、一大会で二人のプロを指名する形となった。大会のシステムは敗者復活戦を伴っていた以前の十段戦本戦を思い出させるもので、本戦トーナメントで一度負けても敗者組トーナメントに回ることができ、二敗すると脱落となる。勝者組・敗者組トーナメントそれぞれの勝者二名(すなわち、全勝者と一敗者)がプロになる、というシステムである。

大会には、欧州各国から16人が参加した。

名前プロフィール
イリヤ・
シクシン
7dロシア2007、2010、2011年の欧州チャンピオン。激しく読みの深い棋風。第一回入段手合には参加せず、今回が初の参加となる。
マテウス・
スルマ
7dポーランド韓国で修行をつんだ経験がある。ここのところ、欧州チャンピオンの樊麾プロ2段(フランス)に三連勝して名を上げた。
クリスチャン・ポップ7dルーマニア日本で院生経験あり。タラヌ・カタリン・プロと同年代で、参加者の中では最年長の部類だが、最近も相変わらず活躍している。
アルテム・
カチャノフスキー
6dウクライナ2013年に世界アマ3位入賞を果たした。手厚く打ち進める、シクシン7dと対照的な棋風。
ルカス・
ポドベラ
6dチェコ 2014年世界アマ6位入賞。スルマ7d同様、囲碁に対して真摯に臨む伸び盛りの若手。
アンドリー・
クラベッツ
6dウクライナ以前は八方破れな棋風だったが、最近中国で修行を積んでじっくりとした碁もこなすようになったと評判。
コルネル・
ブルゾ
6dルーマニア実力もさることながら、パンダネットを始めとするインターネット上のレッスンで定評がある。
オンドレイ・
シルト
6dチェコ

日本で院生経験あり。欧州大会では上位の常連。入段手合は今回が初参加。

トマ・
ドゥバール
6dフランス2010-2013年フランス・チャンピオン。学業も優秀。2011年世界アマ4位入賞。
チャバ・
メロ
6dハンガリー日本で院生経験あり。碁に対する情熱は素晴らしく、欧州囲碁コングレスでは夜遅くまで検討している姿をよく見かける。
ツァオ・
ペイ
6dドイツ大会の紅一点。中国出身で、欧州在住は20年を超える。研修で日本滞在経験もあり。現在はフランス在住。
ドラゴシュ・
バジェナル
6dルーマニア日本で院生経験あり。以前は上位の常連だったが、ここ数年大会から遠ざかっており、この大会が復帰戦となる。
デュシャン・
ミティッチ
6dセルビアセルビア・チャンピオン。弟のニコラさんも6dで、現在日本で院生修行中。
ビクトール・
リン
6dオーストリアオーストリア・チャンピオン。音楽や言語など多くの才能の持ち主。オーストリア囲碁連盟の書記も務める。
ティムール・
サンキン
6dロシア2013年ロシア・チャンピオン。ロシアで若者に囲碁指導をしている。
ボグダン・シューラコフスキー6dウクライナ2014年世界アマ5位入賞。2013年世界学生囲碁王座戦参加。


中国のZhao Baolongプロが、アルテム・カチャノフスキー6d(左)と
デュシャン・ミティッチ6dの碁を検討(写真提供:欧州囲碁連盟)

勝者組決勝。スルマ7d(右)とシクシン7d(写真提供:欧州囲碁連盟)
 16人中、13人が東欧出身である。それはともかく、大本命はすでに数回欧州チャンピオンの経験があるイリヤ・シクシン7d(ロシア)と見られていた。これを追う6-7d勢は層が厚く、あえてシクシン7dの対抗を選ぶなら、マテウス・スルマ7d(ポーランド)かアルテム・カチャノフスキー6d(ウクライナ)、大穴でルカス・ポドベラ6d(チェコ)あたりか、という感触だった。


 ちなみに、上げた名前のうちスルマ7dとポドベラ6dは10代後半、シクシン7dとカチャノフスキー6dは20代前半で、正直30代以上のプレーヤー(ポップ7d、ブルゾ6d、メロ6dなど)には厳しい戦いになるかと予想されたのだが、蓋を開けてみるとベテランがよく頑張った。元日本棋院院生のドラゴシュ・バジェナル6dはカムバック戦でいきなりポドベラ6dを撃沈したし、クリスチャン・ポップ7dは勝者組準決勝に進んだ。しかし、全体に見ればやはり若者の力は止め難く、勝者組決勝は、シクシン7dとスルマ7dの対決になった。

 実績からシクシン7dが有利かと思われたが、スルマ7dは相手のミスを的確に捉え大事な一局を制勝。とても真面目な性格で、学業では「航空学を学んでパイロットになりたい」という19歳が、欧州囲碁連盟として第3番目のプロの地位を獲得した。

一方、もう一人のプロを決定する敗者組は勝者組以上に波乱含みの進行。なんと、勝者組一回戦であっさり敗退したコルネル・ブルゾ6dとトマ・ドゥバール6d(フランス)という二人のダークホースがトーナメント表を駆け上がった。 両者は、準々決勝でブルゾ6dがカチャノフスキー6d、ドゥバール6dがポップ7dという有力候補を血祭りにあげ、準決勝で激突した。結果はブルゾ6dが辛抱強くヨセきって、シクシン7dとの敗者組決勝に臨んだ。初の30代プロ誕生を期待させたが、こちらはシクシン7dが得意の乱戦に持ち込んで圧勝し、欧州の囲碁一大国ロシアの意地を見せた。
シクシン7dの姉であるスベトラーナ・シクシナさんも韓国棋院のプロであり、欧州初の姉弟プロということになる。

写真左:トマ・ドゥバール6d(写真提供:欧州囲碁連盟)
写真右:シクシン7d(左)とブルゾ6dの対局(写真提供:欧州囲碁連盟)

実力者の敗退などはあったが、最終的には、参加者中ランキング上位の2人がプロになる、という順当な結果に落ち着いた。二人の7dが抜けたことで、来年度は更なる激戦が予想される。中国のバックアップで始まった欧州プロシステムはまだ揺籃期であり、「プロになったはいいが、どのように生計を立てていくのか」「九段を量産するようになってしまった昔の大手合と同じように、現在の5-6段陣が今後10数年の間にプロになってしまい、クオリティが下がることになりはしないか」など様々な問題も指摘されている。しかし、長年停滞気味だった欧州囲碁界で何かが動き始めたこと、また欧州囲碁ファンの皆が入段手合という新たな舞台でのハイレベルな戦いを見ることができて喜んでいることは間違いない。新たなプロ達が精進して欧州における囲碁の地位向上に貢献することを切に願うと共に、今後の欧州囲碁の発展に是非期待したい。


左からマテウス・スルマ7d、マーティン・スティアスニー欧州囲碁連盟会長、イリヤ・シクシン7d
(写真提供:欧州囲碁連盟)

(なお、このレポート作成にあたってはビクトール・リン6d、関西棋院のリ・ティン初段の協力を頂きました。この場を借りてお礼申し上げます)

[ 記事:野口基樹 ]

囲碁ニュース [ 2015年2月8日 ]

2015年アントニー囲碁大会


載俊夫8段

2月7-8日の週末に、仏アントニーの囲碁大会が開催されました。アントニーはパリ南部約10キロに位置するベッドタウンです。クラブの歴史は比較的古く、その大会は仏国内のなかでも、パリ、グルノーブル、ストラスブールの大会と並んで最も大規模なものの一つ。毎年100人以上の参加者を集めており、第30回目となる今回も、フランスの津々浦々より30級から8段に至るまで104人の参加者がありました。

優勝は載俊夫(Dai Junfu)8段。中国出身の31歳で現在はフランスに帰化。アマチュアながらプロに対する戦績も優秀で、欧州最強の噂もあり、また仕事の傍ら指導にも熱心で、教則本も出版しています。彼にとっては縁起のいい大会であるのか、全勝で10度目の優勝を飾りました。2位は野口基樹7段、3位は地元のBoris Ly4段でした。


記念ケーキ。中央は、最年少参加者の女の子
今回は大会が作られて以来30周年ということで、表彰式においてクラブのメンバーにより特別に制作された大型ケーキが披露されました。なんとそこにはヒカル、佐為が秀策の「耳赤」の一局を囲む姿が!食べるのが惜しいですね。

なお、欧州では大会の数が増えているため同じ週末に大きな大会が重なってしまうことも珍しくありません。アントニーと同じ7-8日の週末には、アイルランド・ダブリンでも中国・孔子学院が協賛する囲碁大会がやはり盛大に開催された、とのことです。

表彰式にて。フランスらしく、ワインが賞品は定石です